前のような大きく言い合う喧嘩はないけど、たまに小さなイライラが溜まってメッセージですれ違ったり、電話を切ったりすることはあった。
そういうときのためにゆるくルールを決めた。
遠距離でお互いあうことができないのだから、必要なことだと想う。
もちろん、ふたりで話し合った。
①喧嘩したときはその日のうちに仲直りすること。
②小さなことでもなにかあれば報告をすること。
このふたつをいまは大切にしている。
あのときみたいにぶつけるのはではなく、想ってることを優しく伝える。
それができなかった昔のわたしはどんなに子どもだったのだろう。
「わたしのせいで機嫌悪くなったり、イライラしたりするなら別れたほうがいいのかなって考えちゃう。
だけど、わたしは……別れたくない」
「……ひとついわせて」
なにを言われるのだろう。
また別れ話を言われるのかもしれない。そう思ったら自然と視線が下がる。
「あの頃は俺が幼稚過ぎただけで、もう怒ったり呆れたりしても別れるほどの気持ちじゃない。
ゆらんのせいでイライラしてもそれが理由で別れたいなんて思わないよ」
「え?」
「離れるの考えなくていいよ!
俺はもうこんなんで離れるようとするほどの気持ちじゃない!
一生大切にするって約束する」
ゆらんがだいすきだから、と照れくさそうに笑う。
あぁ、もうあのときとは彼も変わっているんだ。
わたしだけが変わったんじゃない。
ちゃんと彼も変わっている。なら、大丈夫なのかもしれない。
足りないところがあれば、補っていけばいい。
「約束ね!」
「もちろん!」
小指をお互い出して約束を交わす。
この約束がずっと続いていけたらいいな。
もうすぐ彼のお誕生日だった。
前は彼の歌の記録をあげた。
わたししかあげられない、だれにも被らずにあなたの心に届くもの。
それは想い出だった。
想い出をどうやって渡すか考えたとき、文字に綴る、小説だと思った。
わたしが彼との日々を綴った書物を送ろう。
そして、別れてからわたしが考えていたことを文字に起こそう。
「ねえ、あのころ別れることを選んでくれてありがとう」
こんな言葉さえいえるほどわたしは強くなれた。
自分の気持ちを前より伝えることができている。
「そして、また好きになってくれてありがとう」
「俺、もういっかいゆらんのこと好きになれてよかった」
彼の言葉にまた幸せを感じた。
別れるという決断はあの頃のわたしたちにとって正解、いや最善だったといまなら思える。
なぜなら、そのことがあったからお互い変わろうと思うことができた。
そして、わたしはいつかは必ず別れるということを常に脳裏に置くことにした。
それは恋人としての別れじゃなくとも。
その分、相手を想える気がするから。
これはだれにどう思われてもわたしにとってはかけがえのない恋の物語なんだと。
あなたと出逢ってからわたしの景色は大きく形を変えた気がする。
たくさんのはじめての感情を教えてもらった。
こんな徒爾な人生ならおわっても構わないとすら思っていた。
恋愛なんて興味がなかった。
けど、恋愛のたのしさ、難しさに気づかせてくれた。
人と深く関わることをしなかった。
けど、狭すぎたわたしの視界はいま、こんなにも広くたくさんのひとで、幸せで溢れている。
そしてその中心にはちゃんとあなたが映っている。
これは全部あなたのおかげなんだ。
あなたがいたから鮮明になった世界なんだ。
これから泣いたり笑ったり。
どんなことがあってもふたりで一緒に乗り越えていこう。
あなたと一緒ならどんなこともたのしめるはずなんだ。
ひとつの空を見ながら思い耽る。
同じ未来をずっと一緒にみられるように。
「ゆらんがいてくれるだけで幸せだよ」
となりには彼が穏やかな表情で柔らかく微笑む。
つられて笑顔が溢れる。
いつか、いつかきっと。
愛してるという感情を最後にあなたから教えてもらいたい。
「ねぇ、あなたのことほんとにだいすきだよ!」
いつまでも笑ってこの言葉を伝えられるように。



