もう一度、好きというために


「ねえ、あなたのこと、ほんとにだいすきだったよ」

 ――なんて、いつか笑って言える日が来るのかな。



 彼と出逢ったのはSNSだった。
 きっかけは好きなアーティストが同じだったこと。

〖らんはね、この曲がいちばん好きなの〗
〖わかる、ライブで聴けたら最高だよね〗

 そんな、ほんの些細なやり取りからはじまった。
 好きな曲の話、過去のライブの話、「いつか一緒に行けたらいいね」なんて未来の話。
 気づけば、彼の通知を待つことが、わたしの一日の中心になっていた。


 付き合いはじめてからは、月に二度、新幹線に乗って会いに行った。
 大阪と愛知。学生のわたしたちには、気軽に会える距離ではなかった。

 改札の向こうで待ってるいっくんは、いつもうれしそうに笑っていた。
 その笑顔を見るたび、遠さも時間も、どうでもよくなった。


 ――2022年8月
 SNSで出逢ったいっくんと三ヶ月付き合って、わたしたちは別れた。
 気づけば、あれからもう数ヶ月が過ぎている。

 別れても、いっくんは言葉通り、わたしとの縁を切らなかった。
 いまでも友だちとして接してくれている。
 それがうれしくて、そして少しだけ苦しかった。



結蘭(ゆらん)ちゃん!」

「あ、太陽(たいよう)くん! おはよー!」

 廊下でわたしを見つけた太陽くんが、まっすぐな笑顔で手を振ってくる。
 わたしもつられて笑顔になった。

 太陽くんは、萌奈(もな)と同じ塾に通っている隣のクラスの男の子。
 金髪で制服を着崩していて、最初は近寄り難い印象だったけれど、話してみると、名前通り、太陽みたいに明るくてあたたかい人だった。
 最近は学校行事で関わることが増えて、自然と話すようになった。

「ねぇ、昨日のアニメみた?」

「みたみた!」

 わたしが頷くと、太陽くんはにっこりと微笑んだ。

 好きなものが同じで、話も合う。
 たのしいし素直にうれしい。
 ――それなのに。

 男の子と話すたびに、どうしても、いっくんの顔が()ぎる。
 ――比べてしまう自分が、いちばん嫌だった。

 わたしはまだ前に進めていなかった。
 何ヶ月経っても、思い出すのは付き合っていた頃のことばかり。
 まるで、想い出の中を生き続けているみたいに。

 わかってる。
 はやく前に進まなきゃいけないって。


「もう、すっかり仲良さそうじゃん」

「あ、萌奈」

 親友の萌奈は、スマホを片手に壁にもたれながら、わたしたちを見ていた。
 どこかたのしそうに、でも、どこか心配そうに。

 わたしは太陽くんのほうに向き直して手を振った。

「じゃあ、またね」

「うん、また!」

 隣の教室へ入っていく彼を見送り、ふたりで教室へ戻る。


「結蘭が前に進めてるみたいで、ちょっと安心した」

 萌奈は、だれにも聞こえないように小さい声でそう言った。

「……うん」

 本当は、全然前になんて進んでいない。
 だけど、悟られないように軽く笑った。

 まだ、消えていない。
 まだ――心の奥で、あの頃を探している。

「あれ、別れたあと、一回会ったんよね?」

「うん。いまは……友だち、かな」

「友だちに戻れるって、すごいことだよ!」

 萌奈はそう言って、まっすぐにわたしを見た。
 その強さに、わたしはほんの少しだけ救われた気がした。

 ――この選択が、間違っていないと信じたかった。