「それより、ようやく揃ったのだからさっさと始めないかい? 仕事をすべて放ってきてしまったから、そう長くはいられないんだよね」

「ああ、俺たちも会合が終わったらすぐに戻らねばならないんでな。なるべく手短に済ませよう」

 そもそも今日の会合は、憑魔による一連の事件の情報共有を目的としたものだ。
 月華内に身を置く五大名家の者は他にもいるが、とりわけこういった月華での緊急時に当主の名代として出席する面子は決まっている。
 すでに当主の座に就く弓彦は例外として、次期当主の冷泉士琉、氣仙茜。安曇からは千隼。八剱は海成だ。
 ちなみに今回、海成には隊の仕事を優先してもらっている。継叉特務隊である以上はいつでも情報共有できるため、出席していなくとも問題はない。
 当初は千隼も出席予定ではなかったが、今回はお鈴が関係しているからだろう。断固として行くと譲らなかったため、致し方なく了承した次第だった。

「で、単刀直入に訊くけど、まず憑魔の存在は正式に認定できるものでいいんだね?」

 その問いかけに、刹那、静寂が満ちる。
 弓彦の穏やかな声色は変化していないはずなのに、室内の気温が一瞬で氷点下まで落ちたかのような感覚だった。

(問いかけひとつでこれほどの緊張感を生み出せるのは、さすがだな)

 若くして当主となり、五大名家の名を背負ってきただけある。弓彦の発する言葉はどれも、まるで齢二十四とは思えないほどの貫禄を伴っているのだ。
 隣で千隼が身を強張らせたのを感じながら、士琉は慎重に首肯する。

「それに関しては、よもや疑いようもあるまい。人に憑く妖魔──憑魔の実態は、すでに報告した通りだが。今回の件で新たにわかったこともある」

「憑魔が継叉の人間に憑いた場合と、一般の人間に憑いた場合の違い。あとは、絃が祓えるものってところかな。まあ、これについては予測できていたけど」

「どういう意味だ」

「どうもなにも。だって、うちの絃だからね。あの子は特別だし」

 核心には触れず飄々と受け流す男に、士琉は眉間を解しながら深く嘆息した。

(当主云々関係なく……苦手だ。この手のものは)

 弓彦は昔からどうにも掴めない男だった。職業柄、相手の心を読むことは得意とするはずなのに、この男だけはいつまでも真意を測れない。
 それどころか、手のひらで踊らされているような感覚にさえ陥るときがある。
 千隼も少なからずそういう一面を持っているが、奴は意図的にやっているためまだマシだろう。この男の場合は、素でその状態だから末恐ろしいわけで。

「妖魔が進化したものか、あるいは退化したものか──。どちらにせよ、報告書を見た限りでは霊力が肝なんだろうね。陰の気で形成されたモノではあるけど、妖魔のように容易く祓えるものじゃない。より強い霊力が必要だと考えられる」

「もう少し具体的に頼む。どの程度だ?」

「うーん、視認できるものじゃないからなあ。でも、あの絃が触れただけで祓えなかったモノであることを鑑みれば、たぶん私でも無理じゃないかな」

 は、と士琉は返す言葉を失って目を見張る。茜と千隼もさすがにこの発言には驚きを隠せなかったのか、正気かと言わんばかりに弓彦を凝視した。

「士琉殿も見たんだろう? 絃の祓術を」

「……あの弓のことか?」

 絃が月代家から持参した弓を大切にしているのは、以前から知っていた。