「あ……」

 我々、というのは、継叉特務隊をはじめとした軍士たちのことだろう。
 民の誘導をする者もいれば、消火作業に尽力している者もいる。傍目からは一見わからずとも、そこには優先順位なるものが存在しているのだ。絃が迷惑をかければその優先順位が変化し、場が混乱してしまう──そんな危惧が感じ取れた。

(わたし、士琉さまを困らせてしまってる)

 だが、気づいたところでやはりじっとしていることはできそうになかった。
 だって、今この瞬間にも、お鈴たちに危険が迫っているかもしれないのに。ただ無事を祈って帰還を待っているだなんて、そんなの絃には考えられない。

「ごめんなさい……でも、お願いです。行かせてください。行かなくちゃいけないんです。もう二度と、あの日を繰り返すわけにはいかないから」

「……十年前のことか」

「はい」

 絃は自分が嫌いだった。自分の弱さが、嫌いだった。要因を作っているのは自分なのに、いつも誰かに護られるばかりで護る強さを持たない自分が大嫌いだった。

 けれど、今ならわかる。
 絃はただ、言い訳をしていただけなのだと。
 継叉ではないから。厄介な体質を持っているから。
 自分のせいで、また傷つく者を見たくないから。
 そう尤もらしい理由をつけて、内からも外からも絃に関われぬよう、頑丈に鍵をかけて遮断した。だっていっそ関わらなければ、誰も傷つかずに済むから。
 周囲も、絃自身も。
 傷つけるのも、傷つくのも、もうこりごりだったから。
 塞ぎ込んで、断ち切って、愛される資格などないのだからどうか放っておいてほしいと突き放して。己の弱さから、ひたすらに目を背けた。

(でも、わたしは……わたしが感じている以上に、愛されてしまっていた)

 弓彦も、燈矢も、お鈴も、士琉も。
 どれだけ絃が拒もうとも、変わらず愛を注いでくれた。それがずっと苦しくて仕方がなかったけれど、そう感じていたのはきっと、本当は受け取りたかったからだ。
 与えられる愛を、ただただ素直に、受け入れたかった。
 でも、できなかった。絃がそれをしてしまったら、いよいよ己の罪を戒め罰するものがなくなってしまうと思ったから。
 だからずっと、拒んでいたのに。

「士琉さま。わたし……ようやくわかったんです」

「ん?」

「与えられる愛を、見て見ぬふりして逃げ続けていたら、そのぶんだけ相手を傷つけてしまうんだって」

 十年もの間、一途に想い続けてくれた士琉の心を受け止めて思い知ったのだ。
 士琉が気持ちを返さなくともいいと告げたとき、しかし言葉とは裏腹にとても悲しげであったから、そこでようやく気づいて愕然とした。
 与えられる愛を拒むのも、受け取らないのも、また罪なのだと。
 ならばもう、受け入れよう。受け入れずに傷つけるくらいなら、いっそ受け入れることで罪を償っていこう。

 ──それが、今の絃が出した答えだった。

「今度はわたしが返したい。今まで与えてもらったぶん、愛を返していきたい。それが当たり前にできるくらい、わたしは強くなりたいんです」

 自分になにができるかなんてわからないけれど。それでも、あの日のようになにもしないまま情けなさに泣いているよりは、ずっとましだ。

「…………、ああ、君は本当に……どこまでも、俺を惹きつける」

 痛みを堪えるように眉間に皺を寄せ、士琉は思わずと言わんばかりにそう零した。

「わかった。ならば、俺も共に行こう」

「えっ」