だが、生贄として捧げられた由椰が、伊世の加護に守られて三百年も眠り続けていた理由が、烏月にもよくわからなかった。

 もしかすると、伊世が、幼い由椰が祠に捧げにきたぼたもちの分の加護を知らぬ間に分け与えていたのかもしれない。妹の伊世には、そういう律儀なところがあった。

 伊世が最後に守ってやった娘なら、三百年も不自然な形で留まっている由椰の魂を人の世に戻し、新しい生を与えてやらなければならない。

 烏月はそう思ったが、三百年ぶりに目の前に現れた由椰からは生きる気力を感じなかった。喰われても構わないと訴えてくる由椰に、烏月は怒りを覚えた。

(せっかく伊世が、消えかけの力で守ってやった命を簡単に捨てようとは……。やはり、人など気まぐれで信用に値しない)

 だが、人の世にうまく戻れずに屋敷に置くことになった由椰は、なぜか烏月の従者たちを簡単に手懐けた。

 烏月も最初は由椰に自分の祠に触れられることをあまり好ましく思っていなかった。だが、由椰が祠に供物を置いてくれたり、祈りを捧げてくれると烏月の胸にあたたかな力が湧いてくるようになり、次第にそれを心地よいと感じるようになった。

 由椰が供物として祠に捧げる料理は美味く、彼女の作ったぼたもちは、三百年前の変わらぬ味がした。