山奥に引き篭もるようになった烏月は、大鳥居の中の泉から、他の地から来たあやかし達に少しずつ侵略されて荒れていく山を、静かな気持ちで見守った。

 ずっと昔から守ってきた二神山は、烏月にとって身体の一部だった。それが荒らされていく度に、自分の力も少しずつ失われていくのが感じ取れた。

 だが、それでよかった。

 人の世は、どんどんと便利になり、人は山の神だった伊世や烏月のことを少しずつ必要としなくなる。荒れていく山を必死に足掻いて守ろうとしたところで、烏月もいつかは伊世のように消えていく。それが早いか、遅いかだ。

 そんなふうに、静かに消えるのを待っていたとき――。泰吉が由椰を連れてきた。

 泰吉は、由椰の左右色違いの瞳や纏う気配を見て、彼女が伊世の生まれ変わりではないかと言った。

 けれど烏月は由椰を見た瞬間、彼女が三百年前に出会った少女だとわかった。由椰からは、なぜか、初めて会ったときには感じなかった伊世の気配がした。

 少し大人びた顔付きになった由椰は、日照りで枯れた村を助けるために、神無司山の生贄として洞窟に閉じ込められていたらしい。そこは、かつて、よそから来た放浪者のあやかし達が集っていた場所にほど近かった。

 神無司山の土地神だった伊世は、人里に生贄など要求しない。

 由椰のいた麓の村の長は、放浪のあやかし達の術にかかり、村の娘を生贄として騙し取られていたのだろう。