【見て、すんごいおまぬけ顔の犬!可愛くない?!】

その文章と共に貼られた写真を見た僕は、不覚にも吹き出した。

昼寝中のよその犬によくここまで近づけたものだ。

うとうととしている薄茶色の雑種犬が、白目をむいて気持ちよさそうな顔を浮かべていた。
なんなら、口元が微妙に開いていて歯石の溜まった黄色い歯も剥き出しだ。

僕の地元でもある隣町に、30歳の今も住み続けている小鳥遊は、こうして通勤中に見かけた動物などの写真を送り付けて来る。

連絡は大抵がくだらないものだが、今までで唯一深刻だったのは彼女の母親が事故で亡くなって、葬式の後に泣くのを堪えたような声で掛かってきた「参列してくれてありがとう」という電話だ。

結局あの後もすぐに通常運転の小鳥遊に戻っていて、大人になった今ものらりくらりと人生を謳歌しているようなやつだ。

返事をするため、スマホの画面に人差し指を触れようとした時、勤務先である、介護施設のフロアリーダーからの着信画面に切り替わった。

「滝本君ごめんねー、仕事終わりに。今シフト組んでるんだけどさぁ、来週の木曜の休み、土曜日にずらして良いかなぁ?」

僕は「ああ。木曜日ですか」なんて淡々とした口調で棚の上に無造作に置かれたボールペンを手に、冷房庫に貼ってあるシフト表の前に立つ。

こんなことはよくある。誰かが休みを変わって欲しいとか、急に誰かが辞める事になったとか。大体がそんなところだ。

話を聞くと、どうやらバイト希望の人が職場体験に来るらしい。その人に仕事内容を教えて欲しいという事だった。

「わかりました。木曜出勤で予定に入れておきます」

「ありがとー!助かるわぁ」

電話越しにも上機嫌なのが分かるくらい、一気に声のトーンが上がる。

返事なんてわかっていただろうに。僕が断る訳がないと踏んで、真っ先に電話をかけてきた筈だ。

夜の散歩でも行くか。

もう立ち上がりたくないと思っていたはずなのに、おにぎりのフィルムや唐揚げの入っていた紙ケースをコンビニ袋に入れて、ゴミ箱に捨てる。
スマホと家の鍵、財布をポケットに突っ込んで部屋を出た。