「ただいまー」

ひとり暮らしの部屋の電気を点ける。朝出掛けたままの状態の部屋は、まるで嵐が去った後のようだ。

机の上には捨て忘れた野菜ジュースの空パックが転がっているし、洗濯カゴに入り損ねたスウェットが、電気が点きっぱなしの脱衣所で無残に放置されている。

「窓まで閉め忘れてるし」

しかも微妙に網戸が空いている。虫は見当たらないので良かったが、暖かくなってきたこの季節。

どんな虫が部屋の中に侵入してくるかわかったものじゃない。
自分のだらしなさに呆れるも、まぁ男の一人暮らしなんてこんなものだろうと勝手に割り切っている自分もいる。

寝過ごした僕に放り出された気の毒な物たちをせっせと片付け、脱衣所に着替えを用意した。

このまま腰を落ち着けたら、もう二度と立ち上がりたくなくなる。
何となくそんな気がしたので、早々に風呂を済ませたかったのだ。

風呂上がりに、コンビニで買ったおにぎりにかぶりつき、まだ温かい唐揚げを頬張る。

一日の終わり。テレビも付けず、マンションの五階の窓から見える山と、そこに繋がるこの辺りで一番大きな国道。オレンジ色の街頭がぽつぽつと灯るのを見るのが好きだ。

都会ほど車の通りは無いが、それでも深夜だろうと明け方だろうと車は通る。

夜勤や、早朝に家を出なければならない早番がある僕にとっては、この時間も誰かが起きている。働いている。そう思う事が、ほんの少しではあるが僕に元気をくれる気がしていた。

こんな仕事のお陰で生きものは飼えない。

自分で言うのも虚しいが、彼女ももう三年はいない。

現実を見つめれば見つめるほど虚しくなる。

そんな僕が誰とも話したくない気分な時に、決まってスマホが鳴る。
この部屋に監視カメラでも付いているのかと疑うくらいだ。

思った通り、今日もグッドなのだかバッドなのだかわからないタイミングで、高校時代の同級生である小鳥遊(たかなし)ひかるからLINEが入った。