うん、美味い。
心の中で呟いた言葉だが、多分表情に出てるだろう。
注文したのはオープンサンドセットと、アイス珈琲だ。
ポテトサラダのオープンサンドと、シーザードレッシングがかかったルッコラとトマトのサラダ。オニオンスープと、男なら一口でも入ってしまいそうなサイズの小さなケーキが添えられている。
開けられた窓から流れて来る、海風の匂いと遠いさざ波の音。
店内が明るすぎないお陰で、柔らかな太陽の光でアイス珈琲のグラスに付いた水滴が煌めく。
外から見たら、錆びて、少し物悲しさも感じるようなマンションだというのに、ここはまるで別世界だ。
店内の壁が打ちっぱなしのコンクリートで無機質なのに対して、置いてある家具などは殆どが木で出来ている。
その冷たい壁と、温かみのあるインテリアとのバランスが絶妙で、キッチンに座って、さっきから一生懸命スケッチブックに何かを描いている店主の姿もまた絵になる。
時間も忘れて居てしまいたくなる場所、という雰囲気を持っていた。
「このケーキって手作りですか?」
甘さ控えめのあっさりとした生クリームに、ソースとトッピングに使われているラズベリーの甘酸っぱさがとても美味しいのだ。
キッチンの脇にあるショーケースには、これとは別にフォレノワールというチョコとサクランボのケーキと、イチゴのモンブランのホールケーキが並べられている。
「えぇ。一人で作っているので数は少ないですけれど。そのセットに添えてあるケーキはいつも変わらないものなんですよ」
僕が「凄く美味しいです」と伝えると、彼女はにっこりと礼を言い、再び手元にあるスケッチブックに視線を落とした。