「お待たせしました。アイス珈琲です。良かったらこちらもどうぞ。サービスですので、お気になさらず」

氷の浮かんだグラスたっぷりの珈琲と共に、手のひらサイズのお洒落な皿に乗せて出されたのはクッキーだ。

シガレットクッキーと言うらしい、葉巻のようにラングドシャの生地をくるんと細長く巻いたものだった。

これをサービスと聞いて僕が驚いた表情をしたからか、愛さんが上品に笑った。

「趣味で作っただけなんです。まだ不慣れで上手に巻けてないものもありますが、楽しくてつい沢山作ってしまったので、お裾分けです」

不慣れと言っても、売り物として並んでいても僕は気付かないだろう。

食べてみると、クッキー生地がほろりと舌の上で崩れ、同時に優しい甘さが広がる。

ひとつ食べた後にアイス珈琲を飲むと、珈琲が一層味わい深く感じた。

「美味しいです、凄く」

僕の言葉に、愛さんも嬉しそうに「良かった」と微笑んだ。

あと五本ある。せっかくだから小鳥遊にも食べさせてやろう。

僕はたまたま目に留まった、アーネスト・ヘミングウェイという作家の本を手に取った。

老人と海。

全く本を読まなかった僕が、前回はエドガー・アラン・ポー、今日はアーネスト・ヘミングウェイ。

何だか、急に賢くなった気がするぞ。と少し誇らしげに背筋を伸ばして表紙を撫でる。

同時に、小学生かよと自らに突っ込んだ。