施設を出た頃には七時を三十分も過ぎていた。今から急いだところで、八時までに珈琲を飲むなんて出来そうにない。

「まぁ……仕方ないか」

どうせ今週の日曜には小鳥遊と一緒に行くのだ。

「静かにあの空間を楽しんで、愛さんとゆっくり会話するなんてのはできないだろうなぁ」

ちらちらと星が瞬く空に独り言ちる。

最寄り駅で夕飯の親子丼を買い、人々が家路につく流れに乗って、自宅への道を歩く。

別に今すぐ帰らなきゃいけない理由も無いし、ちょっとだけお店の前まで行ってみようかな。

もしかしたら愛さんに会えるかも。

そんな何の根拠も無い期待に満ちた僕の足は、喫茶黒猫と月へと目的地を変えていた。