【ねぇ、今度久しぶりに会おう!そっちに良い店あったら紹介してよ】

夜の散歩で男性に会った日から数日たった午後。

やっと取れた休憩時間。カップラーメンに湯を注いで3分経ち、蓋を開ける。

大暴れしていた腹の虫が、目の前の食べ物に早く早くと囃し立てるそんなタイミングに、小鳥遊からのLINEが入ったのだ。

久しぶりに会おう。適齢期の男女でそんな会話をしたら、大抵の人は恋愛的な事柄が思い浮かぶだろう。

だが、僕と小鳥遊の間ではそんな心配は皆無だ。そんな事を言ってきた理由もわかっている。彼女の渾身のブサ犬写真に、返信を忘れたからだ。

それだけでなく、その後に勝手に送り付けて来た写真にも、夜勤が続いていた僕は完全にLINEの存在すらも忘れ去ってしまっていた。

そんなわけで、良い店で奢ってくれというのが彼女の言い分だ。

まぁ、そんなのもきっとただの良い訳で、単に美味しい物が食べたいとか、ストレス発散に気兼ねなく喋る相手が欲しいとかそんな理由かもしれないのだが。

【わかったよ。また予定合わせよう】

文字を打って返信マークをタップしようとした矢先、着信画面に切り替わった。

「もしもーし!おつかれさーん。いつ行ける?」

「何だよ。今返信しようと思ってたのに」

最悪だ。ラーメンはずるずると啜る音が響くし、もごもごして喋れなくなるから食べられない。

これではカップラーメンがのびるじゃないか。

有名店がプロデュースしているラーメンで、少し高かったけど楽しみにしていたのに!

「私もう休憩終わっちゃうんだもんー。で?次の日曜はどうかな。三日後なんだけど」

休憩室のソファに座っていた僕は、壁掛けのホワイトボードに貼ってあるシフト表を確認する。

「あぁ、ちょうど休みだから行ける」

「ラッキー!じゃあ現地集合って事で良いから、お店の場所、LINEで送っといてねー」

そこまで言うと、一方的に電話を切られた。

勝手なやつだとは思うけど、そんなお気楽な彼女の雰囲気や性格も、これが案外嫌だと思ったことが無い。

「店か……」

ここも田舎だし、大して洒落た店があるわけでは無い。

「やっぱりあそこかな」

喫茶店までの地図を彼女に送る。

すっかりのびて水分を吸いまくってしまったラーメンを、一気にすすった。