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8月23日10時00分

待ち合わせ場所にやってきた‪”‬人物‪”‬は
由奈を見て確かにこう言った。
「もしかして、
ハートマーク ユナ ハートマーク、さん?」
と。

​─────♡ユナ♡​─────

由奈をそう認識するのは
二郎。もしくは名ずけ親の紗枝だけだ。

今。由奈の視界を陣取る人物は
紗枝ではない。よってこの人物は……

二郎、という事になる。

「うわ、無理」

由奈がたまらずそう声に出したのは
待ち合わせ場所にやってきた‪”‬男‪”が……

黒髪マッシュ、じゃなかった、
​───────からじゃない。

彼はちゃんと黒髪マッシュだった。

身長だって…
170センチ以下、だった、
​───────訳じゃない。

彼はちゃんと170センチはあった。

ただ​……。

ダサいのだ。猛烈に。服装が。

まるで小学生の夏休みのような
半袖、短パン。
そんな……残念な感じだったからだ。

まぁ、この男こそ、いずれ
由奈の彼氏となりうる男であったのだが。

由奈は意を決して尋ねた。

「もしかして、二郎?」
「そう。それにしてもびっくりしたよ。
まさか八代さんが
ハートマーク ユナ ハートマークさん
だったなんて。」
「あはは……っ、私もびっくりしちゃった…、
てか‪”‬小暮くん‪”って、私服そんな感じなんだ?」


盲点だった。

学校では完璧な姿しか見せない小暮くんが
本当は
物凄い機械音痴で、
匿名性のある場所では決まって、
‪”‬二郎‪”‬という名前を付ける
由奈には理解し難いネーミングセンスの持ち主であるという事は。
そして……
小暮くんの私服は由奈にとって
「うわ、無理」に属してしまう、という事は。

ちなみにその「うわ、無理」は
黒髪マッシュ、身長170センチ
の好条件すらもかき消してしまう程に
由奈にとって、強烈な1打撃だった。

しかしながら
由奈には今まで学校で散々培ってきた
‪”‬片想い期間‪”‬があった為か、
「まぁ、いいか」
的な感じに気持ちがシフトチェンジ出来たのだ。

これを機に、由奈は心に誓った。

物事の本質は…
心の目で見極めるんだ。
人は外見じゃない。中身だ!
清々しく広がる青空をスキップしながら
由奈は小暮くんと共に
お洒落なカフェでパンケーキを……

ではなく

小暮くんちの縁側で
静かにお茶を啜ったのである。