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迎えた8月23日10時00分
今日は二郎と会う日である。
ミーンミンミーン……
待ち合わせ場所ではセミが泣きわめいていて
鬱陶しかった。
噴水広場の中央でスマホをいじる由奈は
どんな人が来るのだろう、と想像しつつ、
夏休み前の事を思い出していた。

そういえば小暮くんち、
縁側あるって言ってたな。
今日は勝手に爺さんと会う、って思ってるけど
もしかすると、もしかしないかなぁ。

「え?八代さん?」

ここに今から小暮くんが来るかもー。
とか考えていた由奈の背中に
なんだか聞き馴染みの声が掛かる。
振り返った由奈は目をまん丸に開いた。

「えっ、小暮くん?」

そこには由奈と同じく、目をまん丸に開いた
小暮くんが立っていた。
なんでこんな所に……。
戸惑いを隠せずただその場で
硬直する由奈に小暮くんは言った。

「もしかして…… キューピット?」

【cupid(キューピット)】
そのアプリ名が小暮くんから
出るとは思ってもみなかった。

「え……そう…」
「じゃあ……♡ユナ♡って、
八代さんだったの!?」
「そう……っ、逆に二郎、って……」
「そう。僕だよ〜」

「えーーーーーーーーーー!!!」

数ヶ月。育成ゲーム&謎解きゲームのように
会話していた……二郎の正体はなんと
小暮くんで。
別に偽名で登録したっていいのだから
なんだっていいのだけど、
「どうして二郎、なの?」と尋ねると、
「あぁ〜。え、と……。
パッと浮かんだからそうしただけなんだ〜」
と、恥ずかしそうに頭をかいた小暮くん。

それにしても流石だ。
噴水広場に現れた二郎……
という名の小暮くんの私服は
「うわ、無理」とはならなかった。
世の中の大半の男の服装は「うわ、無理」
となる由奈がここまでなんの文句もなく
受け入れられた私服は未だかつて無かった。

「カフェでも行く?」
「うん!」

縁側でお茶でもするのかな、と思っていた
数分前とは一変。
由奈はお洒落なカフェで
小暮くんとパンケーキを頬張っていた。
​───────めでたしめでたし。

***

なんて。
いくら小暮くんの家に
‪”‬縁側‪”‬があるからといって、
私は妄想を広げすぎた。
いくら妄想癖が人よりも酷いからといって、
広げすぎだ。

「縁側?あるよ〜」
「え?あるの?」

由奈はブンブンと頭を振って
広げすぎた妄想に瞬時に歯止めをかけた。

「うん〜っ」

なんて事ないみたいに、縁側がある、と言った小暮くんだが、縁側なんてレアなものだと、思っていた由奈にとっては以外な回答だった。
慌てて取り繕うように
顔にかかった髪を耳に掛け、由奈は口を開く。

「そうなんだ!珍しいね!今どき」

縁側の話題は思った以上に
さっきの沈黙を溶かしてくれて、助かった。
ありがとう、二郎ー……。
心の中で礼を言いつつ、
隣を歩く小暮くんを盗み見る。
やっぱり黒髪マッシュしか勝たん。

「あぁ…古い家でね。
祖父がよく縁側で将棋とかさすんだ」

平然と答えた小暮くんに由奈は面を食らった。

「祖父……」