カボス山にて素材採取を終えると、いよいよ武器の錬成に取り掛かることにした。
 使う素材は『岩人(ゴレム)の鉱石』と、岩山で採取した『鼠石(ねずいし)』と『光砂鉄(こうさてつ)』。
 騎士団で使っている剣はこの三つを錬成素材にして作っているようだ。
 鉱石の方は言わずもがな剣の刀身部分に使われるものだが、鼠石の方は握りの部分として錬成に加える。
 鼠のような色と形をしていて、暗くてじめじめした場所にあるためこの名が付いたらしい。
 一方で磨くと輝くような銀色を放つことで見映え的にいいとされている他、柄の素材として用いると滑りにくくなるとのことだ。
 光砂鉄の方は刀身に練り込むことで耐久性の補強と見た目の美しさが増すらしい。

 そして岩人(ゴレム)の鉱石の方は、耐久性が高くて魔物の魔力が蓄えられているため強力な一振りができやすいそうだ。
 切れ味や頑丈さはもちろん、性質付与ができる錬成師が鍛治素材に用いると、通常以上の魔力を込められるため強い性質を付与しやすいという。
 まあ私の場合は、素材そのものに強力な性質を付与できているからあんまり関係ないけどね。
 ちなみに今回採取した素材にも、相変わらずとんでもない性質が付与されていました。

岩人(ゴレム)の鉱石
詳細:岩人(ゴレム)の体を構成していた鉱石の一つ
   耐久性が高く魔力が蓄えられている
   鍛冶や調合による加工は難しい
性質:鋭利性強化(S)

鼠石(ねずいし)
詳細:鼠のような灰色と形が特徴的な石
   磨くことで鮮やかな銀色の輝きを放つ
性質:耐久性強化(S)

光砂鉄(こうさてつ)
詳細:暗所で光を放つ砂鉄
   製鉄に用いると輝きを宿す鉄が作れる
性質:自動研磨(S)

「鋭利性強化に耐久性強化、それに自動研磨まであるのか……。武器錬成に最適な性質ばかりだね」

 感心しているのか呆れているのか、クリムが苦笑を浮かべながらそう言った。
 私はまだ性質のこととかよくわかっていないので、どれほど貴重なものなのかは理解できていないけど。
 とりあえずはまあ、さっそく刀身部分の錬成修行に取りかかることにした。
 まずはクリムが錬成のイメージを教えてくれる。
 鉱石の変形、剣の形状、不純物の除去などなど。
 手元には見本も用意してくれて、クリムは丁寧に説明してくれた。
 おかげで私は錬成のイメージを早く吸収することができたので、すぐに実際の錬成に取りかかることにする。
 けれど……

「う、上手くいかない……」

 これが予想以上に上手くいかなかった。
 剣がイメージ通りの形にならず、ブサイクな木の枝みたいになってしまう。
 これは鉱石の変形と素材が組み合わさるイメージが上手くできていないということ。
 岩人(ゴレム)の鉱石と光砂鉄(こうさてつ)が綺麗に混ざり、刀身として形が変化していくイメージが定まっていないのだ。
 クリムが作ったお手本の方は透き通るような銀色の刃で、形も綺麗なのに。
 それでも私は諦めずに、失敗作に繰り返し錬成魔法をかけていく。

「魔力が枯渇するまで、何回でもやり直しができるから。失敗してもまた錬成し直して、それで感覚を掴んでいって」

「わ、わかった」

 錬成の修行は素材一式だけでも可能となっている。
 錬成に失敗して想定外のものが出来上がっても、失敗作をまた錬成し直せばそれでいいから。
 それで繰り返し錬成を行っていく中で、錬成の感覚とか素材の理解度を高めていくということである。

「一度錬成したものって、別の素材と掛け合わせて錬成するのは相当難しいって言われてるんだよね?」

「『錬成物を錬成の素材にするのは難しい』っていう錬成師の間の常識だね。それがどうかした?」

「でも錬成したものをそのまま錬成し直すのは簡単にできるんだなぁって思ってさ。この失敗作も一応は錬成物でしょ?」

「だからそれを錬成術で錬成し直すのは難しいんじゃないかって?」

 クリムは咳払いを一つ挟むと、私の疑問に対して的確な回答をくれた。

「そもそも錬成物を錬成の素材にするのが難しいのは、錬成物の構造が人間の頭では理解ができないからって言われてるんだ」

「錬成物の構造?」

「錬成術は素材をよく理解していないと成功しないって言うだろ? だから構造が複雑な錬成物を錬成素材にするのはすごく難しいんだよ。僕たちの頭じゃ、複雑な錬成物と他の素材が交わるイメージが持てないから」

 確かに、錬成で出来上がったものと他の素材が交わるイメージはまったくつかないな。
 だから錬成物を他の素材と掛け合わせて、新しい錬成物を生み出すのは難しいのか。
 凄腕の錬成師でも、錬成物と別の素材を掛け合わせるのは一回か二回くらいしかできないって言うし。

「でも、錬成したものをそのまま錬成し直すのは簡単にできる。別の素材を混ぜ合わせるわけじゃなくて、単に形を変えるだけだから難しくはないって言われてるんだ」

「だから錬成を繰り返して、錬成の感覚と素材の理解度を高めていくのが『錬成修行』……か」

 私は作業机に置かれた失敗作に目を落とす。
 素材一式で修行ができるのはすごくありがたいことだ。
 これで望み通りのものが完璧に作れるようになるまで錬成を繰り返していく。
 あとは手本を見たり触ったりして形を覚えることも大切らしいので、クリムが作った剣もよく観察しておこう。
 今は歪な木の枝みたいな剣だけど、修行していけばまともな見た目に変わっていくはずだから。

「僕も最初はそんな感じだったけど、割とすぐに使い物になる武器は錬成できたからそこまで時間は掛からないと思うよ」

「……それはクリムが天才ってだけじゃないの?」

 感覚の掴み方とか速さはさすがに個人差があるので、クリムが天才ってだけな気がする。

「僕の才能はどうか知らないけど、どんな錬成師も少なくとも二週間以内には感覚が定まるって言われてるよ。実際、その辺りが原因で錬成師は『鍛治師泣かせ』とも言われてるくらいだからね」

「あぁ……」

 それは私も聞いたことがある。
 錬成師の手がけた武器や防具がかなりの上等品で、しかも短時間で出来上がるため鍛治師泣かせの職業だと。
 加えて鍛治師を育てるよりも短い期間で武器の錬成ができるようになるので、本当に鍛治師にとって錬成師の台頭は痛手になっているようだ。

「でも鍛治師の品がすべてにおいて劣ってるってわけでもないよ。鍛治師には鍛治師にしか出せない職人の色とかあるし、鍛治師作品にこだわる人もいるくらいだから」

「そういう人たちも振り向かせられるような、すごい武器を錬成できるようになれたら一番だね」

 いつか自分のアトリエを持った時に、たくさんの人たちに自分の作品を買ってもらいたいから。
 というわけで、私は一層気合いを入れて武器錬成の修行を再開させた。