彼が拡声器を手放す気配はなく、淡々と真っ直ぐ遠くを見つめ語り続ける。
「皆さんのことを騙してしまって本当に申し訳なかったです」
深々と謝罪をした後に『ひとつずつ説明させてくれ』とまた頭を下げる。
「まず……めるてゃん。貴女には本当に迷惑を掛けてしまいました」
彼の視線の先に先程の少女がいた。
「私……ですか?」
「リークの件で濡れ衣を着せてしまった」
あれ程の罵声を受けた彼女の目から不思議と怒りの感情は感じられなかった。
「謝罪は大丈夫です!私自身怒ってないので。だからその代わりに本当のことを教えて欲しいです」
芯の通った素直な人だとその返答から感じた。
「全てを説明することは少し難しいけど計画的炎上の一種というのが一番適切な表現かもしれない」
「計画的炎上……?」
「これは本心を知るための方法だったんだ」
彼の返答はどこか不透明で謎めいている。彼の視線が少女から男性に移る。
「レイユさーん!僕晒してもらうなら貴方がいいってずっと思ってたんです!」
頭を下げていた姿とは対象的に大きく手を振る無邪気すぎる彼の姿に困惑する男性の目はショーを見る子どものような光を宿していた。
「それ……どういうことですか!?」
「僕の画像をリークしたの僕自身ということですよー!」
まさかの言葉に『RINNE告白式』という名称の意味がわかった気がする。
「えっ……それは自作自演ということで間違いないということですか?」
「レイユさんの影響力ならどこまでも拡散されていくだろうと託してみたんです!」
彼の無敵感に恐怖すら感じる。結局『RINNE』の目的はなんなのだろうか。
その場にいる誰もが言葉を発することを忘れた。数秒の間に処理し切れないほどの情報が脳に流し込まれる。
「そして何より貴方に僕は一番謝らなければいけないのかもしれませんね」
視線の先が真っ直ぐ僕に向けられた。僕は今回誰かを欺く側の人間だと思っていたけれど、それすらも嘘だということなのだろうか。
「貴方に送ったアドレスは全て僕の複数アカウントだったんですよ」
「それってつまり……」
「貴方は正真正銘の無罪ということです。誰も騙してない、傷つけていないということです」
何を言っているのか理解が追いつかない。
『全部自作自演ってことなの?』
前列の中心にいた青年が今にも泣き出しそうな目で彼を見る。普通の状況なら同情するのが一般的だろう。そんな前提を覆すような嘘のない微笑みを青年に向け、彼は口を開いた。
「そうしたからこそ、みんなの本当に思っていることがわかったんでしょう?」
解釈のズレはあったとしてもその場にいる誰もが彼の話していることの真理を理解した気がする。誰もが持っていた賞賛への違和感を打開すべく方法に一番適している形がこの一連の騒動だということに気付かされた。前習ての正しさを振りかざすことの愚かさを痛感させられた気がする。きっと僕たちが生きた数週間の世界な本当を知っていたのは『RINNE』ただひとりだったと。
「全員が騙し、騙されたことで生まれる繊細で脆く醜い感情と生々しい感覚を僕は浴びたかったんですよ」
困惑する僕たちを目で追いながら頷き話す彼の手は興奮か緊張か、わかりやすく強張って震えていた。
「きっとあの瞬間、誰もが世界の中心に自分がいると錯覚し無意識のうちに誰かの神様になっていたのではないでしょうか」
今振り返ると、リーク画像を入手した彼女は優越感に浸ると同時に情報源としての神様に。それを晒した彼はその情報を信じる数万人の神様となった。僕自身も誰かを欺いているという架空の事実にどこか特別感を抱き、人の上に立ったような感覚になっていたのかもしれない。
「それが『RINNE』の目指した世界……?」
何も言わずに頷く彼の顔に出どころのわからない安堵感を覚える。拡声器を置いた彼の後ろに人影が映る。マスクで顔を覆い、深く帽子を被った日本人離れした背格好の男性。
『僕に嘘と真実を教えてくれてありがとう。RINNE、君は僕の生まれ変わりなのかもしれないね』
しゃがれた声の男性がマスクを外し帽子を外す。
そこにはあの日報道でみた『RINNE』が夢みた神様がいた。
この世界に本当の神様の定義は存在しないのだと彼の冷静さを失った目から確信した。
「皆さんのことを騙してしまって本当に申し訳なかったです」
深々と謝罪をした後に『ひとつずつ説明させてくれ』とまた頭を下げる。
「まず……めるてゃん。貴女には本当に迷惑を掛けてしまいました」
彼の視線の先に先程の少女がいた。
「私……ですか?」
「リークの件で濡れ衣を着せてしまった」
あれ程の罵声を受けた彼女の目から不思議と怒りの感情は感じられなかった。
「謝罪は大丈夫です!私自身怒ってないので。だからその代わりに本当のことを教えて欲しいです」
芯の通った素直な人だとその返答から感じた。
「全てを説明することは少し難しいけど計画的炎上の一種というのが一番適切な表現かもしれない」
「計画的炎上……?」
「これは本心を知るための方法だったんだ」
彼の返答はどこか不透明で謎めいている。彼の視線が少女から男性に移る。
「レイユさーん!僕晒してもらうなら貴方がいいってずっと思ってたんです!」
頭を下げていた姿とは対象的に大きく手を振る無邪気すぎる彼の姿に困惑する男性の目はショーを見る子どものような光を宿していた。
「それ……どういうことですか!?」
「僕の画像をリークしたの僕自身ということですよー!」
まさかの言葉に『RINNE告白式』という名称の意味がわかった気がする。
「えっ……それは自作自演ということで間違いないということですか?」
「レイユさんの影響力ならどこまでも拡散されていくだろうと託してみたんです!」
彼の無敵感に恐怖すら感じる。結局『RINNE』の目的はなんなのだろうか。
その場にいる誰もが言葉を発することを忘れた。数秒の間に処理し切れないほどの情報が脳に流し込まれる。
「そして何より貴方に僕は一番謝らなければいけないのかもしれませんね」
視線の先が真っ直ぐ僕に向けられた。僕は今回誰かを欺く側の人間だと思っていたけれど、それすらも嘘だということなのだろうか。
「貴方に送ったアドレスは全て僕の複数アカウントだったんですよ」
「それってつまり……」
「貴方は正真正銘の無罪ということです。誰も騙してない、傷つけていないということです」
何を言っているのか理解が追いつかない。
『全部自作自演ってことなの?』
前列の中心にいた青年が今にも泣き出しそうな目で彼を見る。普通の状況なら同情するのが一般的だろう。そんな前提を覆すような嘘のない微笑みを青年に向け、彼は口を開いた。
「そうしたからこそ、みんなの本当に思っていることがわかったんでしょう?」
解釈のズレはあったとしてもその場にいる誰もが彼の話していることの真理を理解した気がする。誰もが持っていた賞賛への違和感を打開すべく方法に一番適している形がこの一連の騒動だということに気付かされた。前習ての正しさを振りかざすことの愚かさを痛感させられた気がする。きっと僕たちが生きた数週間の世界な本当を知っていたのは『RINNE』ただひとりだったと。
「全員が騙し、騙されたことで生まれる繊細で脆く醜い感情と生々しい感覚を僕は浴びたかったんですよ」
困惑する僕たちを目で追いながら頷き話す彼の手は興奮か緊張か、わかりやすく強張って震えていた。
「きっとあの瞬間、誰もが世界の中心に自分がいると錯覚し無意識のうちに誰かの神様になっていたのではないでしょうか」
今振り返ると、リーク画像を入手した彼女は優越感に浸ると同時に情報源としての神様に。それを晒した彼はその情報を信じる数万人の神様となった。僕自身も誰かを欺いているという架空の事実にどこか特別感を抱き、人の上に立ったような感覚になっていたのかもしれない。
「それが『RINNE』の目指した世界……?」
何も言わずに頷く彼の顔に出どころのわからない安堵感を覚える。拡声器を置いた彼の後ろに人影が映る。マスクで顔を覆い、深く帽子を被った日本人離れした背格好の男性。
『僕に嘘と真実を教えてくれてありがとう。RINNE、君は僕の生まれ変わりなのかもしれないね』
しゃがれた声の男性がマスクを外し帽子を外す。
そこにはあの日報道でみた『RINNE』が夢みた神様がいた。
この世界に本当の神様の定義は存在しないのだと彼の冷静さを失った目から確信した。