『RINNE』があのツイートをする数分前、僕の元には一件のダイレクトメッセージが届いていた。
内容は連絡というより、代行依頼といった方が適切だと思う。数分後、誰もの目を奪う『RINNE』からの運命の代行。
ー*ー*ー*ー*ー
『初めまして。突然すみません私、RINNEと申します』
雲の上のような存在から『突然すみません』と話しかけられていることが、画面越しだとしても信じられなかった。
「初めまして。RINNEさんからご連絡いただけていることにすごく驚いています。どうなさいましたか?」
「貴方にお願いしたいことがあり、ご連絡させていただきました」
「僕に……お願い……?」
見当すらつかない内容に、言葉を繰り返すことしかできなかった。
「第三者から見た際にこの会話の内容が馴れ合いだと受け取られたくないため、身勝手ではありますが手短に伝えさせていただきます。冷淡に感じさせてしまったら申し訳ないです」
「いえ、それはRINNEさんのお仕事に支障がでない範囲で大丈夫ですので」
プロ意識の徹底ぶりに魅力を感じる。底知れぬ『RINNE』自身の中にある自己像に惹かれていく。
「では早速本題に入らせていただきます」
「……はい」
いくら文面での会話だとわかっていても、手の震えと感じたことのない動機が止まらない。
「今から送るファイルを下に記されている転送先へ、書いてある通りの日に送ってほしいのです」
「僕のアカウントからですか……?」
「大丈夫。送った先から貴方のアカウントが特定されないように規制をかけておきましたから、貴方が矢面にたつことは絶対にございません」
「……わかりました」
「貴方が僕からの願いを承諾してくれるのであれば今からそのファイルをここに送ります。さぁどうしますか?」
正直『RINNE』が何を考えて動いているのか、今の僕にはわからないけれど僕自身を救い続けてくれた人に返しきれない恩を少しだけでも返せるかもしれない逃してはいけない機会だと思った。断るという選択肢が頭に浮かぶことがなかった。
「そのお願いを叶えさせてください」
「貴方にお願いできて本当によかったです。心から感謝しています」
その言葉と同時に送られてきたファイルを開く。十数枚にもなる画像を読み込むのには少々時間を要したけれど、その時間が僕の心を少しずつ落ち着ける猶予期間となった。
「……これって」
少しずつ鮮明になっていく画像の正体は『RINNE』と関係のある女性と思われる人物のトーク画面のスクリーンショットだった。業務的な内容は一切なく恋愛的で、とても他人が踏み入っていいような領域ではなかった。その画像の後にすぐ送信先のアドレスが送られてくる。
「これを送ってRINNEさんはどうなるんですか?」
送っても一向に返信が来ない。失礼になってしまうという自制心より、困惑と焦燥が勝った。
やっと届いた返信には一切質問に対する回答が記されていなかった。
「ファイルとは別に今から送るものは貴方にだけ一旦送らせていただきますので、そこに記されている指示に従っていただけると嬉しいです」
再び、今度はふたつのファイルが送られてきた。ひとつめは
『RINNE告白式計画書』
「告白式……?」
混乱を鎮めようと必死に文字を追う。今日からちょうど一ヶ月後に『RINNE』活動史上初めてのオフラインイベントを開催しようと計画をしているらしい。その開始場所として記載されている住所を調べると普通より少し立派な外観をした民家と合致した。次のファイルに各項目の注意点について詳しく記されているらしくすぐに読み込む。
『開催場所は私自身の自宅であるため、近隣住民の迷惑にならぬよう注意を促すこと』
主催者本人の自宅で開催されるオフラインイベントは、前代未聞のものだった。『RINNEが何を考えているのか』という疑問を越え、全てがわからなくなった。その後も当日の整理の準備は行わず、料金も取らないこと、観客による全コンテンツへの投稿を許可すること、全面的な撮影の許可など異例続きの注意事項は続いた。注意事項というより、そこには規制のないことの証明が続いていた。そして最後に僕に当てての注意点が記されていた。
『主催者は、今これを読んでいる貴方にお願いする。僕の身に何があろうとこの日にこのイベントを開催すること』
意味深な言葉と指示に、不思議と従う以外の選択肢が浮かばなかった。
理解しようと噛み砕いている間に『RINNE』の最新ツイート通知が鳴った。
『RINNEの生命線を絶つときが来たみたいです』
最後の注意点の意味がわかってしまったような気がした。悪寒が走る。画面を見ると、また新たなファイルが送られてきた。返信をしても既読すらつかない。画面の前にいる気配すら感じられない。僕にとって最悪の結末を想像して息が詰まる。
震える手を抑えなが画面を見つめ続ける。開いたファイルの名は、
内容は連絡というより、代行依頼といった方が適切だと思う。数分後、誰もの目を奪う『RINNE』からの運命の代行。
ー*ー*ー*ー*ー
『初めまして。突然すみません私、RINNEと申します』
雲の上のような存在から『突然すみません』と話しかけられていることが、画面越しだとしても信じられなかった。
「初めまして。RINNEさんからご連絡いただけていることにすごく驚いています。どうなさいましたか?」
「貴方にお願いしたいことがあり、ご連絡させていただきました」
「僕に……お願い……?」
見当すらつかない内容に、言葉を繰り返すことしかできなかった。
「第三者から見た際にこの会話の内容が馴れ合いだと受け取られたくないため、身勝手ではありますが手短に伝えさせていただきます。冷淡に感じさせてしまったら申し訳ないです」
「いえ、それはRINNEさんのお仕事に支障がでない範囲で大丈夫ですので」
プロ意識の徹底ぶりに魅力を感じる。底知れぬ『RINNE』自身の中にある自己像に惹かれていく。
「では早速本題に入らせていただきます」
「……はい」
いくら文面での会話だとわかっていても、手の震えと感じたことのない動機が止まらない。
「今から送るファイルを下に記されている転送先へ、書いてある通りの日に送ってほしいのです」
「僕のアカウントからですか……?」
「大丈夫。送った先から貴方のアカウントが特定されないように規制をかけておきましたから、貴方が矢面にたつことは絶対にございません」
「……わかりました」
「貴方が僕からの願いを承諾してくれるのであれば今からそのファイルをここに送ります。さぁどうしますか?」
正直『RINNE』が何を考えて動いているのか、今の僕にはわからないけれど僕自身を救い続けてくれた人に返しきれない恩を少しだけでも返せるかもしれない逃してはいけない機会だと思った。断るという選択肢が頭に浮かぶことがなかった。
「そのお願いを叶えさせてください」
「貴方にお願いできて本当によかったです。心から感謝しています」
その言葉と同時に送られてきたファイルを開く。十数枚にもなる画像を読み込むのには少々時間を要したけれど、その時間が僕の心を少しずつ落ち着ける猶予期間となった。
「……これって」
少しずつ鮮明になっていく画像の正体は『RINNE』と関係のある女性と思われる人物のトーク画面のスクリーンショットだった。業務的な内容は一切なく恋愛的で、とても他人が踏み入っていいような領域ではなかった。その画像の後にすぐ送信先のアドレスが送られてくる。
「これを送ってRINNEさんはどうなるんですか?」
送っても一向に返信が来ない。失礼になってしまうという自制心より、困惑と焦燥が勝った。
やっと届いた返信には一切質問に対する回答が記されていなかった。
「ファイルとは別に今から送るものは貴方にだけ一旦送らせていただきますので、そこに記されている指示に従っていただけると嬉しいです」
再び、今度はふたつのファイルが送られてきた。ひとつめは
『RINNE告白式計画書』
「告白式……?」
混乱を鎮めようと必死に文字を追う。今日からちょうど一ヶ月後に『RINNE』活動史上初めてのオフラインイベントを開催しようと計画をしているらしい。その開始場所として記載されている住所を調べると普通より少し立派な外観をした民家と合致した。次のファイルに各項目の注意点について詳しく記されているらしくすぐに読み込む。
『開催場所は私自身の自宅であるため、近隣住民の迷惑にならぬよう注意を促すこと』
主催者本人の自宅で開催されるオフラインイベントは、前代未聞のものだった。『RINNEが何を考えているのか』という疑問を越え、全てがわからなくなった。その後も当日の整理の準備は行わず、料金も取らないこと、観客による全コンテンツへの投稿を許可すること、全面的な撮影の許可など異例続きの注意事項は続いた。注意事項というより、そこには規制のないことの証明が続いていた。そして最後に僕に当てての注意点が記されていた。
『主催者は、今これを読んでいる貴方にお願いする。僕の身に何があろうとこの日にこのイベントを開催すること』
意味深な言葉と指示に、不思議と従う以外の選択肢が浮かばなかった。
理解しようと噛み砕いている間に『RINNE』の最新ツイート通知が鳴った。
『RINNEの生命線を絶つときが来たみたいです』
最後の注意点の意味がわかってしまったような気がした。悪寒が走る。画面を見ると、また新たなファイルが送られてきた。返信をしても既読すらつかない。画面の前にいる気配すら感じられない。僕にとって最悪の結末を想像して息が詰まる。
震える手を抑えなが画面を見つめ続ける。開いたファイルの名は、