「炎上もネタ切れだよねー」
毎日毎日誰かを晒しあげ、必要以上の罵声と過大表現した言葉を浴びせる。それが僕の配信活動のスタイル。パクリ、イラストのトレス、迷惑行為、未成年の問題解決、正義のヒーローのような立ち回りをしているが、本質を見れば人の過ちを嗅ぎつけ、そこから湧いた金で飯を食う最低な行為を繰り返しているだけなのかもしれない。そんなただの悪行のようなコンテンツも最近は『晒し系』と称され量産されてきたが、僕は群を抜いてその界隈のトップにいる。誇っていいものなのかは怪しいところだけれど。

 『レイユさん!すっごい情報仕入れましたよ!』

僕の配信は基本的にリスナーから届いた情報を公開し、不可解な点をリスナーと特定し真相を探っていく順序で成り立っていく。今日も届けられる情報を慣れてしまった手つきで確認しに行く。最近は確認する前に届いている情報の系統が大抵わかるようになってきた。
今日の発信元のアイコンは、昨今流行している『量産型』と呼ばれるファッションを纏った女性の画像に淡いピンク色のフィルターが掛けられている。このアイコンから察するにホスト絡みか、知名度の低い活動者の異性関係に関する暴露だろう。捌きやすい。
リンクの先に飛ぶ、完全に油断していた。

 『人気アーティストRINNE失踪の真相にはある女性との関係があった』

こんな大物が潜んでいるとは予想もしていなかった。
『RINNE』は僕自身好きで追いかけていたアーティストのひとりで、あのツイートを見た瞬間、時間が止まる感覚があった。信じられなかった、信じたくなかった。配信に私情を挟むようなことは極力したくないけれど、こればかりは動かずにはいられなかった。

 『本日十八時。レイユ配信史上最大規模のお話します』

この話をするのなら集客は多い方がいい。いつもより早く宣伝のツイートをする。何気にこの細かい呟きが命になるのがSNSだったりする。

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 十八時、予定していた時刻が来てしまった。同時閲覧数は驚異の六万人。それは一度アプリのサーバーが止まってしまうほどの人数だった。コメントの流れもいつもの数十倍早い。

 『早速話していくのですが!今回の題材はこちら!』

集めた数を取りこぼさないよう、エンターテインメント性を意識し意気揚々と話を始めるが、この話を聴いて傷つく人がいることは充分わかっている。僕もそのひとりだからだ。

 『大人気アーティストRINNE失踪に隠された真実!』

コメントの勢いが止むことはなく、拡散される件数も一気に増えた。
その後も女性と『RINNE』のトーク画面のスクリーンショットを貼り出していくと面白いほどに画面から熱を感じた。いつもの相槌だけのコメントだけではない。

 『RINNEのこと信じてたのに……』
 『じゃあRINNEは男ってこと?』
 『やっぱある程度有名になったら女いるよね』
 『ここまで隠し通してたの逆に好感なんだけど』

それぞれが本当に思ったことを匿名という保険がけで吐き捨てていく。持続性すらないけれど、その言葉はどれも確実に生きているものだった。二時間にも及んだ配信の最後に、画像提供をした本人に連絡をとってみることにした。

 『レイユさんこの人アカウント消えてるよ』

リスナーの協力のもと本人らしきアカウントを見つけることができた。

 『めるてゃんって人が送ってきた本人っぽい……レイユさんにリンク送っておきました』

リスナーから届いたリンクの安全性を確認した後に、本人に通話をかけてみると驚く程の速さで相手の声が聞こえた。

 「はい……どうなさいましたか?」

やけにか細く、僕のことを本当に認識していないようだった。

 「私、某配信サイトで活動をしておりますレイユと申します」

 「レイユさん……どういったご用件で?」

 「先日私にアーティスト『RINNE』さんの件でリーク画像を送ってくださったのは貴女なのではないかということでご連絡させていただいたんですけれども」

彼女の本心から怯えたような声に、批判的なコメント欄が混乱し始めた。その混乱を遮るように彼女は冷静な声で語り始めた。

 「先日私のところにリーク画像が送られてきたことは事実です。ただ私自身がそこから拡散したり、
誰かに教えたりという事実は一切ございません」

 「では僕に画像を送った『めるてゃん』という人物は貴女とは別の人物であるということで間違いないですか?」

 「そういうことになります」

やけに言い切った声に疑うことを忘れそうになってしまった。そのまま通話が途切れ、僕の配信史上初めて真相のわからないまま配信が終わった。あの様子から察するに、彼女の単なる虚言によって起こった騒動も考えたが、弱々しい声から彼女が挑発的な行動を自ら起こすとは思えない。
配信終了の数分後、デスク上のパソコンが光る。見覚えのあるアイコンからの通知。

 『さっきの通話での話、全部嘘ですよ』