考えるたびに息が苦しくなる。
もう、やめよう。
本を閉じて、少ししわになってしまった青いビニール袋に本をしまう。
書かなくては、私は書くことしか残されていないんだ。
才能なんてないから、書き続けるしかない。
それが私。
重い腰を上げて公園の出口の方に視線を向ける。
あの少年が、深海の本をもってゴミ捨て場に本を捨てようとする。
「え、ちょ、ちょっと!!」
気が付いたら走り出していて。
話したこともない人に話しかけに行っていて。
彼の行動を止めようとしていて。
相手もびっくりしているけど、一番びっくりしているのは自分自身だと思う。
「それ!今日発売の新作ですよね、なんで捨てちゃうんですか?」
彼の背中に向かって声をかけると、捨てようとしていた本を持ったままこちらを振り返った。
少し、疑うような表情で。
当たり前だと思う。
突然知らない人に話しかけられるのだから。
「ご、ごめんなさい、私、紫波 紡って言います。突然ごめんなさい。」
「なんで、止めたの」
「え、っと、お、面白かったから」
「は?」
「『少年の終末。』面白かったから、捨てちゃうの、もったいないなって思っちゃって。あ、でも!個人の自由だから絶対ダメってわけじゃないんですけど、えっと」
彼の瞳は揺らがず私をとらえている。
吸い込まれそうな真っ黒の瞳には少しの太陽の光がさしている。
やってしまった気がする。
こういうことをするから、小学校も中学校もうまくいかない。
わかっていたはずなのに。
通信制高校に入って人とかかわることが減ってきていたからなのか、上手な私でなくなってしまった。
「ごめんなさい、突然こんなこと。あの、忘れてください。本当に、ごめんなさい。」
「面白くなかった。」