翌朝、学校を出る時間になってもユウミは布団から起き出してこない。部屋のカーテンを開け、朝日の陽光が差し込むように調整すると、ユウミはようやくゆっくりと重たい瞼を持ち上げた。

「おはよう。ずいぶん遅いお目覚めね」

「ん……結奈、なんか熱い」

「え?」

覇気のない彼女の声を聞いて、私はもしかしてと思い当たり体温計を彼女の脇に挟む。
しばらくしてピピッという音がして体温計を見ると38度5分。完全に発熱している。

「熱あるじゃん。どうしよう……」

母はすでに仕事に出かけている時間で、家には私一人しかいない。だが、これから学校があるので看病するのも難しい。いっそのこと学校を休んでしまおうか……と一瞬頭をよぎったが、新学期2日目から学校を休むのには抵抗があった。

「学校、行ってきて」

「でも……大丈夫?」

「うん」

ユウミがそう言うので、私はユウミの枕元に濡れタオルと洗面器、それから非常食として家に置いていたおかゆや水を置いて、家を出ることにした。

「何かあったら電話して」

「分かった」

携帯の番号を書いた紙を渡し、私は後ろ髪を引かれるようにして部屋から出た。ユウミはぐったりとしていて、返事をするとすぐにすっと瞳を閉じてしまう。帰ってくる頃には熱が下がっていればいいけど、少し長引きそうだ。


ユウミを置いて学校に着くと、昨日私の陰口を言っていた連中が私の方を一瞥した。新学年になって早々教室で嘔吐してしまった私のことを、皆はどんなふうに思っているのだろう。のっけから完全に失敗したという感覚に陥り、誰かに話しかけることもできずにそのまま席についた。

やがて始業のチャイムが鳴り、担任の横川先生が教室に入って来た。

「あ、花木(はなき)。大丈夫か?」

先生が私の顔を見てほっとした顔をして聞いた。

「はい。なんとか……昨日はすみませんでした」

「いや元気になったなら良かった」

それだけ言うと教室全体に響き渡る声で「席つけー」と指導した。
誰ももう、私への興味など失っているようだ。それでいい。私はこの教室であと一年、日の当たらない毎日を送るのだ。
こうして大好きだった佳道のいない高校生活が幕を開けたのだった。