*
3月末、ひらひらと雪のように舞い落ちる桜の木を眺めるために、この辺で一番大きな公園では花見に来た人々で賑わっていた。
ぎりぎりで就職先が決まり、4月から社会人になる私は母と二人で公園にやって来た。2年前、佳道と一緒に訪れた場所だ。
「ねえこの辺にしない? 人も少ないし」
お弁当を抱えた母が、桜の写真を撮っていた私を手招きする。母の言う通り、その桜の木は他の桜の木と外れた場所にあり小さい木だったので、他の花見客がいなかった。
「うん。いいよ」
小さな桜の木に近づいて、私は持って来たレジャーシートを広げる。
シートに腰掛ける前に、この可愛らしい桜の写真を撮っておこうとカメラを構えた。
「あれ?」
レンズ越しに見えた桜の枝に、本物の花ではない何かがぶら下がっていて私は手を伸ばした。
「どうかした?」
「これ……」
私が掴んだものは、どこかで見覚えがある桜の形をしたフェルトのストラップだった。
それは、私がユウミにお守りとして作ってあげたストラップそのものだ。
「どうしてこんなところに?」
不思議そうに首を傾げる私を、母もどうしたのと覗き込む。
ユウミにあげたお守りがこんなところにぶら下がっているなんて。もしかしてこの桜の木はユウミの生まれ変わりかもしれない。
ファンタジーな妄想だった揶揄されても構わない。だって、私のそばにユウミは確かにいてくれたのだから。
私は、小さな桜の木の幹をそっと撫でる。掌から伝う暖かさが、私の胸に小さな灯火をともしてくれた。
【終わり】
3月末、ひらひらと雪のように舞い落ちる桜の木を眺めるために、この辺で一番大きな公園では花見に来た人々で賑わっていた。
ぎりぎりで就職先が決まり、4月から社会人になる私は母と二人で公園にやって来た。2年前、佳道と一緒に訪れた場所だ。
「ねえこの辺にしない? 人も少ないし」
お弁当を抱えた母が、桜の写真を撮っていた私を手招きする。母の言う通り、その桜の木は他の桜の木と外れた場所にあり小さい木だったので、他の花見客がいなかった。
「うん。いいよ」
小さな桜の木に近づいて、私は持って来たレジャーシートを広げる。
シートに腰掛ける前に、この可愛らしい桜の写真を撮っておこうとカメラを構えた。
「あれ?」
レンズ越しに見えた桜の枝に、本物の花ではない何かがぶら下がっていて私は手を伸ばした。
「どうかした?」
「これ……」
私が掴んだものは、どこかで見覚えがある桜の形をしたフェルトのストラップだった。
それは、私がユウミにお守りとして作ってあげたストラップそのものだ。
「どうしてこんなところに?」
不思議そうに首を傾げる私を、母もどうしたのと覗き込む。
ユウミにあげたお守りがこんなところにぶら下がっているなんて。もしかしてこの桜の木はユウミの生まれ変わりかもしれない。
ファンタジーな妄想だった揶揄されても構わない。だって、私のそばにユウミは確かにいてくれたのだから。
私は、小さな桜の木の幹をそっと撫でる。掌から伝う暖かさが、私の胸に小さな灯火をともしてくれた。
【終わり】