家に帰り、二階の自分の部屋に上がると、布団から身を起こすユウミの姿があり目を疑った。

「ユウミっ」

私は急いで鞄を置いて彼女の元へ駆け寄る。
ユウミがこうして自力で起き上がれたのは数ヶ月ぶりだったから。何があったのかと私は混乱する。ユウミの病気が良くなっているのだろうか。

「おかえり結奈」

「どうしたの!? もしかして、今日は体調良いの」

私の疑問に、ユウミは控えめに頷いた。

「良かった……!」

ユウミの上半身を抱きしめると、彼女の腕が私の腰を抱きしめ返してきた。その確かな温もりに、私はこみ上げてくるものを抑えることができなかった。

「結奈、泣いてるの?」

「だって、このままユウミの身体が良くならなかったらどうしようって……」

「大丈夫だよ、いつか治るって。それより結奈、今日何かあった?」

私はユウミから自分の身体を放し、彼女の目をじっと見つめた。ユウミに、学校での出来事を話したことはない。体調の悪い彼女に余計な心配をかけたくなかったのだ。
けれどいま、心のうちを聞かせてほしいと彼女のまっすぐな目が語っていた。
私はごくりと唾を飲み込んで、これまで学校でクラスメイトにされてきた数々の嫌がらせについてユウミに話した。それから、未来に絶望して今日屋上へ登ったことも。佳道の元へ踏み出す勇気がなかったことも。

「そんなことがあったんだね。気づいてあげられなくて、ごめんね」

ユウミのせいではないのに、自分のことのように顔を歪め、私の苦労を慮る彼女。
私は首を横に振った。

「違うの。私が何も話してなかったから。ユウミは悪くない」

私は彼女の手をそっと握る。この手の内側を脈々と流れる血が、自分と同じ時を生きていることを知らせてくれる。だから私はまだ前を向くことができた。

「結奈にお願いがあるの」

私の話を聞いた彼女が、何かを思案するような真剣なまなざしで私を見つめた。

「なに?」

ユウミから私にお願いをすることなんてこれまで一度もなかった。不思議に思い、私は身を乗り出す。

「つつじヶ丘公園に連れていってほしい」

つつじヶ丘公園。
彼女の口から出てきた単語に驚いた。彼女に公園のことを話したことはないのに、どうしてつつじヶ丘公園のことを知っているのだろう。
ひょっとして、ユウミの記憶が戻った……? 分からない。それに、連れていくのは簡単だけれど、彼女の体調を考えると心配だった。

「体調が良くなったら行こう」

「いや、今がいい」

いつになく強引なユウミの様子に、私は目を丸くする。

「どうしても今じゃないとだめ?」

「だめ。お願い、連れてって!」

あまりにも必死な彼女に私は言いようもないほど心を動かされた。
私は、依然として私をまっすぐに見つめる彼女に向かって、「分かった」と返事をした。