当たり前のように空気を読んで、息を吸っていた私にとって気を使うことは日常だった。

気が付いたら、なにも断れないような人間になっていたけど。

バチン、バチン。

ホチキスが一定のペースで音を立てる。

単純作業は嫌いじゃない、何にも考えずにできるから。

不意に、ホチキスを止める力が抜けた。

「あ、針、なくなってる。」

ホチキスを取ってきたときに針も一緒に持ってこればよかったななんて考えながら席を立ってロッカーへ向かう。

何処に入れたっけ、とロッカーに入れているペンケースをあさる。

針の入った箱をもってロッカーの扉を閉めた時、視界の端に白いものが映った。

それに手を伸ばしてつかみ取る。

「これ、ワイヤレスイヤホン......？」

それにしてもこのイヤホン、どこかで見たことがある。

少し考えるが、思い出せない。

仕方がないから、針と一緒に持っていってティッシュでくるんで机に置く。

ガラガラと古いドアが音を立て、誰かが教室に入ってきた。