「五年連続でコンクール金賞取ってる人なんて他にいませんよ」

 まったく、と鈴が拗ねたように唇を尖らせる。
 五年、というのは、中学のときから換算されているのか。
 前々から思っていたけれど、本当に鈴は俺のことをよく知っている。若干そこに混ざりこむ嫉妬や羨望が気になるが。

「まあ、そうは言っても地方コンだし……」

「でも激戦区の関東です」

「まあ、そうだけど。そもそも、俺はあまり、ああいう他者が評価するタイプの結果は気にしないから。正直、絵に関しては優劣付けるもんじゃないと思ってるしね」

 鈴が一瞬、ぴきりと固まって双眸を瞬かせる。

「……というと?」

「絵に正解なんてないでしょ。その人の描いたものがすべてだし、描いた本人がこれだって思えば、それはもう作品として成立してる。コンクールの評価は、おおかた技術的な面や独創性、あとは大衆に受けるかどうかで審査されてるわけだから」

「ええとつまり、誰かに見せるために描くものと、自分のために描くものでは違うってことですか? コンクール用の絵は、しょせんコンクール向けってこと?」

「簡単に言えばね」

 ふうん、と鈴は考えこむように腕を組んで曖昧に相槌を打った。

「たしかにそれも一理あるんですけど……。でも私、そのうえで響くものってあると思うんですよね。自分がそれを描けているかはべつとして」

「響くもの?」

 鈴がほんの少し遠慮がちにうなずいた。
 こういうとき、俺の意見に流されることなく、芯のある自分の考えを相手にぶつけられるのは鈴のよいところだな、と思う。

「なんていうか、先輩の絵みたいに。見た人の心を掴む絵。技術や表現力ももちろん大事ですけど、その絵に込められた魂の叫びというか──そういうものが込められた絵は、たとえ下手でも人々の心に届くじゃないですか。感覚的なことなので、言語化するのはなかなか難しいんですけどね」

「……ムンクの叫び、みたいな? 正確に描かれてない訴えってことかな」

「ふふ、うん、そうですね。あれもまぁ、その一種なのかもしれません。魂の叫びというかは曖昧ですけど。でも、第六感に突き刺さるなにかがある気がしません?」

 まあ──そう、なのかな。
 いまいちはっきりと飲み込めなくて、俺は顎に指を添えて考える。
 こんなふうに、絵に関することを突き詰めて話すのは嫌いじゃない。