「そうして。その方があの子も落ち着くでしょうしね。ほら、わかったら戻るわよ」

 ……こんな子だっただろうか。
 さっさと俺の横をすり抜け、すたすたと歩いていく榊原さんを目で追いかけながら、ぼんやりとそんなことを思う。

 ──他人に興味がない。

 この言葉を俺に当て嵌めるなら、そこに『生き様』が付随する。他人の生き様にまったくもって、心底、関心がない。どうでもいい。
 なぜ、と訊かれても困る。それに理由なんて大仰なものはないのだ。
 たんに、自分以外の人間がこの世でどんな生き方をしていようが、俺にはなんの関係もない。そう思うだけ。むしろ、なぜそんなに他人に興味や関心を得られるのかの方が気になる。他人なんて、しょせん、他人なのに。
 義務的なこと以外でクラスメイトと話すこともないし、そのせいで怖がられるのだろうとは薄々気づいてはいるが、それでもなお変わろうとは思えなかった。

 ──けれど、小鳥遊さんと出逢ってから、ほんの少しだけ。

 なんとなく、他人のことが気になるようになってきたような気もするのだ。

「ねえ、榊原さん」

「なによ?」

 俺の呼び掛けに振り返る榊原さんの顔は、無表情なようで暗澹としていた。
 その向こう側に潜んでいるものの影が、なんとも背筋をぞくりと這いずり怖気を生む。この色が掴めない感じは、小鳥遊さんに関係しているからか。

「俺は、小鳥遊さんのことが好き。……だと、思うんだけど」

「だと思うってなによ。てか、なんでそれをよりにもよってあたしに言うの?」

 はぁぁぁあと深く嘆息して、榊原さんがげっそりしながら頭を抱える。

「……君が、前に俺のことを好きって言ってくれたから」

「っ……」

「すごく遅くなったけど、ちゃんと返事はしないといけないのかも、と思って」

 俺はこれまで、他人からの好意を受け流していた。その好意を肯定することも否定することもなかった。結局は関係のないことだったから。
 でも、この『好き』という言葉は、一方的か否かで大きく形が変わるものらしい。
 つい最近、それを知った。
 自分自身で経験して、ようやく理解した。
 そうして、思い至ったのだ。どちらとも取らず泳がせておくことは、自分にとっても相手にとっても、あまりに残酷なことなのではないかと。

「ごめんね、榊原さん。俺はずっと、君にひどいことをしてたね」