あっ、と小鳥遊さんがわかりやすく大きな目を輝かせた。

「せっかくだから、一緒に食べる?」

「いいんですか!?」

「そっちがよければね」

 バッと勢いよく友だちの方を振り返る小鳥遊さん。彼女たちはもうすでにわかっていたようで、そろって苦笑しながら了承の意を示した。

「せっかくだから、お言葉に甘えさせてもらおっか」

「ま、鈴が先輩を前に釣られないわけがないしね」

「やった、ふたりとも大好き!」

 よい友だちなんだな、と思う。見ているこちらも微笑ましい光景だ。
 ただ、小鳥遊さんが同性の友だちと仲良くしているところを見慣れないせいだろうか。少し背中がむずむずして、もどかしいような心地もする。
 俺に向けられる笑顔とは、また違った素の一面に触れたからかもしれない。

「隼もいいよね」

「聞く気ないだろ。べつにいいけどさ」

 隼はジトッと俺を見て、口をへの字にした。
 なんだかんだ俺に甘い隼が断るはずもない、という勝手な算段だが、実際男ふたりで食べるよりは女子も一緒の方が華やかになるだろう。
 まあ、これが小鳥遊さんじゃなければ、誘っていなかったけど。
 さっさと屋上へと繋がる扉を開けて、五人そろって庭園へと降り立つ。
 中心にそびえる桜の大木の麓は、やはり木陰になっていた。
 全員もれなくジャージ姿だし、多少は汚れても構わないからと、アスファルトの地面に直接座ることにする。ベンチもあることにはあるが、あちらは日光に近くて暑い。

「思ってたより涼しいね。影なだけでこんなに体感温度違うんだ」

「そうそう、根元はまったくお日様当たらないから。夕方はもっと涼しくなるよ」

「というか屋上庭園ってこんな感じだったんだね。あたし何気に初めて来たわ」

 きゃいきゃいと楽しそうに話す女子たち。なんとも無邪気に相好を崩している小鳥遊さんを眺めていると、つい俺まで笑みを誘われそうになる。
 実際少し笑っていたのか、隣に座る隼が実にげんなりとした顔で俺を見てきた。

「視線がクッソ甘え。なんかおまえが笑ってると鳥肌が立つんだけど」

「ひどい言い草。俺だってたまには笑うよ」

 隼いわく、俺は元来『表情筋が死んだ男』らしい。
 そんな俺がこんなふうに他人の会話に和んでいる時点で、幼なじみとしては気味が悪いんだろう。心底、余計なお世話だが。
 でもたしかに、以前は有り得なかったことだなとも思う。