「先輩って普段口数少ないのに、私の前だとたまに別人みたいな鋭い切り返ししてくるじゃないですか。結構な切れ味でバッサリと。だからそうしおらしくされると、どうにも調子が狂っちゃいますね。あはは……」
「……そう?」
「自覚ないんですか。や、それもまた先輩らしいですけど」
まあたしかに言われてみれば、小鳥遊さんの前では自然と言葉が出るかもしれない。
他の女子やクラスメイトには、基本的に「うん」や「いや」しか返さないのに。
例外なのは、幼なじみの隼と──ああ、榊原さんくらいか。我ながらわかりやすすぎるな、とは思うが、こればっかりは無自覚なのでどうしようもない。
「なんというか……小鳥遊さんは、たぶん、興味深いんだと思う」
「へ?」
「先が読めないから」
人を見ると、大抵その人がどんな色かわかる。描くならこんな色かと、瞬時に変換される。あの色とあの色を混ぜこんだような人だなと、俺の他人に対しての第一印象はすべて『色』で定まっているのだ。
そして頭のなかで変換された色味を、俺はこの六年、鉛筆一本で表現してきた。
だが、小鳥遊さんは、そもそもの『色』がわからない。
初めて会ったときから今日までずっと。
描いてみたいと思うのに、どうにも嵌らない。一向に掴み切れずにいる。力量が足りないのかと疑ったりもしたが、きっとこれはそういう問題でもないのだろう。
「小鳥遊さんは、俺の常識に当てはまらない。それがすごく、面白いよ」
「え~……それ、褒めてます?」
「さあ、どうかな」
きっと小鳥遊さんの色がわからないのは、彼女がモノクロの世界に似合わないからだ。白と黒、そしてその中間色ではとても表現しきれないほど、鮮やかだから。
「……うん。まあ、どっちでもいっか」
「そう。どっちでもいい。そこは重要じゃないからね」
「はい。それで話を戻しますけど……私、ユイ先輩が運動得意じゃないことくらい知ってますよ。知った上で見たいんです。むしろ、そんなユイ先輩が気になる」
「物好きだね」
「どんな過程でも結果でも、先輩は変わらず先輩でかっこいいから。それこそ私にとっては、徒競走のゴールの順番なんてさして重要じゃありません」
なんてことないように言っているが、相当ハイレベルな口説き文句だ。