けれど、いざそう指摘されるとへこみそうになる。俺はもう少し、他人と関わる努力をした方がよいのかもしれない。小鳥遊さんに近づくためにも。
「私は応援団です」
「は?」
素っ頓狂な返しがツボに入ったのか、小鳥遊さんがおかしそうに笑う。
ほのかに吹いた風が小鳥遊さんの長いうしろ髪を攫い揺らした。
以前切りすぎた前髪は、この二か月でちょうどいい長さになっていた。
「汗水垂らして奮闘する生徒たちを安全圏で全力で応援する係、ですかね」
「なにそれ、ずるい」
「ふふーん」
しかし、体育祭の競技に応援団なんてあっただろうか。そもそもあれは、競技に換算されるものなのか。そうふと疑問に思いはしたものの追求はしない。
そんなことは俺にとって、さして重要ではないのだ。小鳥遊さんがなにをやるにしても、この『見たい』という思いに変わりはないのだから。
「じゃあ当日は前に出て、あの……腕を動かすやつ、やるの?」
「言い方。まあ、残念ながらあれはやりませんけどね。自称応援団なので」
「……? どういう意味?」
「ふふ。当日はテントの下にいますよ、たぶん。体育祭本部の横のところです」
さりげなく誤魔化された気がしたが、まあいい。わかりやすいに越したことはない。
「ユイ先輩の勇姿をしかと目に焼きつけますから!」
「…………」
こう言ってはなんだが、絶対に最下位になる自信しかない。自分の情けない姿を小鳥遊さんに見られると思うと、ずんと心に重しを乗せられたような心地になる。
変だ、本当に。彼女と一緒にいると、ずいぶん胸の奥が騒がしい。普段はいつだって最果ての海のごとく凪いでいるのに、これではまるで俺ではないみたいだ。
「あんま、見ないで」
「え?」
「かっこ悪い、でしょ。俺は走るのとか得意じゃないから」
小鳥遊さんは長い睫毛に縁どられた双眸をぱちくり瞬かせる。それからひどく不安と怪訝を綯い交ぜにしたような表情をして、一歩大きく後ずさった。
「……今、私の隣にいるのって、本物のユイ先輩ですか?」
「なに言ってるの、どこかに頭ぶつけた?」
「あっ、ユイ先輩だ」
いったい今のどこで俺だと判別したんだろう。