私相手にそんな顔をしてくれる沙那先輩は、やっぱり悪い人ではない。ただ不器用なだけで、わかりにくいだけで、誰かを思いやる心は人一倍持ち合わせている。
「とんとん、とまではいきませんが、幸いまだ加速はしてないみたいですね。でも五年ですから、さすがにいろいろと不備は出てます。生きるために最低限の機能しか残してないというか。うん、ぎりぎりラインを辿ってる感じです」
例えば胃の消化機能とか。味覚とか、嗅覚とか。
そういった、私自身にも感じられる不具合がここ最近増えてきたように思う。
──とくに、記憶関連のことは。
「体力も磨り減っているので、本当は学校生活も渋られてて。だけど、通えなくなる限界までは通うって決めてるんです。だからこうして戻ってきちゃいました」
「な、なんで、そんな無理するのよ。病院で大人しくしていた方が寿命だって……っ」
「そうですねえ」
困惑した表情をする沙那先輩に、思わずくすりと笑ってしまう。
「たしかに、病院にいた方が寿命は多少延びるかもしれませんけど。でも、どうせいつかなくなる命なら、ちゃんと最後まで使い切りたいから。それに……」
ユイ先輩に会いたいから、という言葉は直前で飲み込んだ。
きっと言わなくても、沙那先輩ならちゃんと察してくれるだろう。ユイ先輩とは違って、意外と気遣い屋な彼女は相手の真意を読むことに長けているから。
「これが理由です。すみません、あまり聞いていて楽しい話じゃないですよね」
「……あなた、なんでそんなに落ち着いてるの」
「え?」
「大変な病気なのに、どうして他人事みたいに話せるのって聞いてるのよ。……無理に聞いたあたしが、言えることでもないかもしれないけど」
他人事とはまた言い得て妙だ。私は眉尻を下げながら、慎重に言葉を選択する。
「なんて言ったらいいかな。……五年経ってるから、ですかね」
「どういう意味?」
「発病からこの五年間、いつ訪れるかもわからない死を覚悟して生きてきたんです。後悔しないように、今を全力で──なんて少年マンガみたいで嫌なんですけど。でも、本当にそんな感じで。その、私なりに向き合ってきた結果、といいますか」