「……枯桜病と言われる語源は、発病から死までの期間が、まるで美しい桜が枯れるようだから。身体の機能が徐々に散っていく様を、なかば皮肉的に表現したものですね。実際はそんな美化できるものでもないんですけど」

 本当に体が桜の花びらになって散ることができたら、どんなによいだろう。
 もう数え切れないくらいに考えたそれを、自嘲を浮かべながら振り払う。

「余命は人それぞれです。枯桜病は死間際になって急速に症状が進むのが特徴なので、いざ進み始めないと余命すらもはっきりしなくて」

「……それ、は、何年くらいとかも……」

「そうですね。これまでの最長記録は発病から五年九ヶ月らしいですけど、早い人は一年も経たずに亡くなってます。でも、若い人ほど進行は遅いみたい」

 夕暮れを逆光に浴びる先輩の顔色は悪い。だから面白くない話だと言ったのにな、とより申し訳なくなりながら、私は場を和ませようと少し声音を上げた。

「私は小学六年生の終わり頃に枯桜病を発症したんです」

「え……小六? えっと、あたしの一つ下だから……」

「今から五年前ですね。残念ながら、まだ最長記録には届いてませんけど」

 見た目からはわかりにくい、かもしれない。
 痩せてはいても平均身長より背が低いおかげであまり目立たないし、そもそも表面上に現れるものではないのだ。あくまで内側のみが徐々に衰退していくだけ。

「なので今回一ヶ月休んだのは、検査のためです」

「……検査? その、病気の?」

「はい。体の内側が現時点でどのくらい衰退しているのか、衰退速度はどの程度なのかを定期的に検査するんです。一日二日ではわからないので、一ヶ月ほどかけて行う必要があって。だから、学校を休んで入院していました」
 新学期開始と被ってしまったのは、私的にも相当な痛手だった。
 だが、こればっかりは致し方がない。
 なにせもう五年目だ。私の体は、いつなにがあってもおかしくない状態にある。

「……結果は」

「え?」

「結果は、どうだったの。まだ……」

 生きられるの、と声にならなかった言葉が聞こえた気がして、私はくすりと笑う。
 案の定、どうして笑うのかと沙那先輩は今にも泣きそうな顔を歪めた。
 ──けれど、だって、ほら。