二日に一度のペースで通っていたお見舞いがぱったりとなくなってしまったせいで、ここ最近は恐ろしいほどの虚無感に苛まれているけれど。
──絵画コンクール、ね。
俺はポケットからスマホを取り出しながら、ネットで検索する。
地方絵画コンクール。全八地方、中学部門と高校部門に分かれて毎年行われているそれなりに大きなコンクールだ。
本気で画家を志している中高生ばかりが集うため、総じてレベルが高く、将来的に活躍する画家の登竜門とも言われているらしい。
金賞、銀賞、銅賞、優秀賞、佳作。数多くの作品のなかから入賞した作品は、地方内展示の後、全地方の入賞作品を集めて都内某美術館で一年間展示される。
なんのまぐれか、俺はこの絵画コンクール──とりわけ競争率が高いと言われている関東地区で五年連続『金賞』を取り続けていた。
はたしてそれがすごいことなのか、いまいちわからないのだけれど。
世間では天才モノクロ画家とかなんとか知らぬ間にもてはやされ、無駄にその俗称だけが広まっている状態。それを聞くたびに、俺はどうにも靄ついた気分になる。
灰色の世界しか見えないから、鉛筆でそれを描いているだけなのに、と。
「去年は……これか」
絵画コンクールの公式ウェブサイトには、これまでの入賞作品が掲載されている。
まあ、これまで一度もまともに見たことはなかったが。
開催地区と開催年数を入力して入賞作品のページを開けば、いちばん上に大きく表示されたのは俺の作品だ。モノクロゆえにすぐわかる。
こんなの描いたっけ、とつい思ってしまうような。
──それほど、ふとした日常を切り取った一枚。
鉛筆一本で描かれたそれは、自分で見てもまったく心を揺さぶられない。
そりゃあそうだ。いつも見ている光景なのだから。
その下をスクロールして、手が止まる。
「……鈴のやつだ」
銀賞。小鳥遊鈴。タイトルは『緋群の空』。
柔らかい水彩タッチで描かれているそれは、ちょうど夕暮れ前、茜と群青が混ざり合う黄昏時。けれど決してそのふたつの色だけではなく、ともすれば虹よりも多い数の色彩で作られた光の表現がとても美しい絵だった。
あまりひけらかさないけれど、鈴は、ちゃんと『画家』の才がある。
技術的な面で言えば、俺と負けず劣らず上手い。