「そんな先輩が、私に対しては不思議なほど執着してるでしょう。もしかしたら絵を描くことよりも。自惚れてるみたいで恥ずかしいですけど、だからこそ不安を覚えずにはいられないんです」

 それはきっと私だけじゃない。
 普段からユイ先輩をよく見ている人たちは、誰しもが思っていることだろう。沙那先輩はその得も知れぬ不安を代表して暴露してくれただけだ。

「先輩は、私がいないと寂しいですか」

「……寂しい、とかはわからない。なんかもうその次元じゃないっていうか、想像がつかないっていうか、とにかく考えたくない」

「うーん、重症だ。まずそこからハッキリさせないといけない感じですね」

 そうだなぁ、と私は苦笑しながら頭を悩ませる。
 鈍感なユイ先輩は、きっとただ『生きてほしい』と伝えたところで、その理由を見つけられないのだろう。生きる理由なんて普段人は考えないけれど、先輩は少し真面目に考えるくらいの方がちょうどよいのかもしれない。

「じゃあ、先輩。宿題です」

「宿題?」

「今日から一ヶ月の間……そうですね、十月末まで。私がいない生活のなかで、私の存在が先輩にとって『どんなもの』なのかを探してみてください」

 は、とユイ先輩がぽかんと口を開けた。
 なにを言われているのかわからない、という混乱の溢れた面差しだ。

「その間はお見舞い禁止です」

「……ちょっ、と待って。なにそれ、どういうこと。意味わかんない」

「有り体に言うと、距離を置きましょうってことですよ。私がいなくなった後の予行練習、というか。先輩が生きていけるかどうかの、試験期間です」

 愕然としたように私を凝視するユイ先輩は、心なしか青褪めている。

「無理。そんなの、無理。え、無理でしょ。ただでさえ鈴はいつどうなるかわからないのに、これ以上会う時間を減らすとか……っ」

「大丈夫です。先輩と会えない間に死んだりなんか、絶対にしませんから」

 ふふ、と笑えば、ユイ先輩はいよいよ焦ったように「なんで」と喉を詰まらせた。

「なんでそんなこと言えるの」

「なんとなくわかるんですよ。自分の体のことですから」

 もう長くはない。でも、きっと先輩と会えない間に私が死ぬことはない。
 気の持ちようというのも捉え方次第だ。ユイ先輩に会えていないのに死んでたまるかという気概は、きっとすべからく私の生命力になる。