「味方とかじゃないですよ。単に気持ちがわかるだけです。あそこまで直球に切り込んでくるとは思いませんでしたけど……」

 まあ、沙那先輩らしい。普通の人なら踏み込めないところまで、土足で踏み込んでゆける。そんな強かなところは、いっそ見習いたいとすら思えるほど。
 相手を思いやる気持ちが強いがあまりエスカレートしてしまいがちだけれど、きっとそれは沙那先輩の短所であり、また長所でもあるのだろう。

 ただ、奇しくも本人に自覚がないから、なおのこと踏み込まれた側は唐突なパーソナルスペースの侵害に困惑してしまう。
 けれど、それは得てして、なにかを変えるきっかけにも繋がるのだ。
 意図された悪でも、偽善じみた優しさでもない。なんの殻も被らない?き出しの彼女の心が訴えてくるからこそ、心に届くものがある。

「……私もね、気づいてたんです。先輩が未来のことを考えていないことは」

「そんなの考える必要ないでしょ」

「いいえ。それは現実逃避って言うんですよ、ユイ先輩」

 とはいえ、先輩の場合は『考えたくない』という逃避とは異なるのだろうけど。

「さっきも、言ったじゃん。俺の未来に鈴がいないなんてこと、有り得ないんだよ」

「でも、私がいる未来のことも、先輩は考えてないでしょう?」

「っ……」

「そもそも先輩は、私が死んだ後のことをまったく見据えていないんです。自分の人生もそこで終わると思ってる。違いますか、先輩」

 ユイ先輩が動揺したように顔を上げて、なんでと言わんばかりに私を見つめた。
 否定も肯定もない。しかしそれこそが答えなのだろう。

「だからこの間、生きてって言ったのに」

「……あれ、そういう意味だったの。というかなんで気づくの」

「先輩はもともと『生』に執着がないから」

 私がこの世界から消えると共に、先輩も共に消えようとするのではないか。
 最初にそう危惧したのは、ユイ先輩が私を彼女だと言った、あの瞬間だ。

「生きること、だけじゃないですね。先輩は基本的に『絵』以外のことに関しての執着が少なすぎる傾向にありますから」

「……鈴も俺を人形だって言うの?」

「言いませんよ。人形は人を好きになんかなりません」

 だけどね、と私は一呼吸置いてから続ける。