4限の英語が終わって、昼休み。
鈴奈にお昼を誘われたけれど、吹奏楽部の部長さんに撮影許可を撮らないといけないから断った。
鈴奈の求める言葉をのせて。
2階の北校舎、2年生棟へ向かい、奥の方にあるB組へと足を動かす。
ドアを三回ノックして口を開く。
「しゃ、写真部の神楽と申します。吹奏楽部の部長の方に用事があって、きました。」
『先輩に慣れていない後輩ちゃん』の味付けをしながら言葉を選んだ。
そんな私に気づいてくれたのか、知らない先輩に少し待っててね。と言われる。
感謝の言葉をこぼして少しだけ待つと、部長さんらしき人が来てくれた。
「吹奏楽部部長の浅草 翠です。何か用事かな?」
ショートヘアの女の先輩。勝手なイメージはトロンボーン。
「突然ごめんなさい、写真部一年の神楽 映優と申します。写真部の活動で、吹奏楽部に写真を撮りに行きたかったんですけど、いつなら大丈夫ですか?」
「ああ!部活動紹介冊子だよね。実は毎年楽しみにしてるんだ。」
「本当ですか⁉ありがとうございます!」
「えっと、日付だよね。んっと......。あ、今週はどうかな。合奏もあるし、セクションも、パート練習もあるよ。」
吹奏楽部は一口に“練習”といっても、たくさんの種類の練習がある。
個人練習、パート練習、セクション練習に全体合奏。
練習方法も様々だ。中学時代に学んだ。
去年の撮影スケジュールでは、各部活のいろいろな練習方法をまんべんなく撮影するために一週間に一つの部活を撮影していた。
「それじゃあ、今週は吹奏楽部の撮影に行かせてもらってもいいですか?」
「ぜひぜひ!じゃあ、放課後、音楽室で待ってるね。」
「お時間ありがとうございました。」
翠先輩に頭を下げると、ばいばーいと手を振ってくれた。
吹奏楽部は先輩後輩の距離がすごく近かった印象がある。高校もそうなのだろうか。
距離が近いがゆえに傷つけてしまった記憶がよみがえる。
もう、一年前のことだ。後悔したって仕方がない。
そう、分かっているはずなのに。
あの時の傷ついた顔が頭の中で広がる。
何も考えないようにして教室に戻ると、5分もしないうちに授業が始まった。
それでも、あの顔が離れない。
午後の授業は全く集中できなかった。