◇
「依澄ちゃん、今日、かき氷食べに行かない? すごく美味しそうなお店、見つけたの」
期末テストが終わって、帰りの支度をしていると、詩織ちゃんが満面の笑みでやって来た。
「咲楽ちゃんと由紀ちゃんは行くって。依澄ちゃんはどう?」
「ごめん、今日は先約があって」
私が言うと、詩織ちゃんの眉尻は綺麗に下がった。
申しわけない気持ちと、嬉しい気持ちが同時に芽生える。
「また今度、誘ってね」
「次も彼氏を優先しそうだけどね」
詩織ちゃんの後ろから、意地悪な声がした。
由紀も咲楽も、まるで悪役のような笑みをしている。
約束の相手は言っていない。
それなのにわかったのは、私たちの告白シーンが学校中で噂になってしまったから。
お陰様で、私たちは全校生徒公認のカップルだ。
「……しないよ」
「どうだか」
咲楽たちは顔を見合わせる。
この二人は似た者同士みたいで、私からしてみれば、仲良くなってほしくない二人だった。
すると、落ち込んでいた詩織ちゃんは、笑顔に戻った。
「依澄ちゃん、デート楽しんできてね」
嫌味のない言葉を言ってくれるのは、詩織ちゃんだけだ。
私は、彼女の言葉だけは素直に受け入れられる。
「ごめんね、詩織ちゃん」
これ以上、咲楽と由紀にからかわれる前に、私は教室を出た。
テスト終わりで浮かれるみんなの横をすり抜け、昇降口に向かう。
先輩は先に着いていたらしい。
靴に履き替え、前髪を整えてから、先輩に声をかける。
私を見つけた夏川先輩は、相変わらず優しい眼をした。
「そういえば、バスケ部はよかったの?」
校門をくぐると、先輩が心配そうな顔で、そんな質問をしてきた。
私は、バスケ部に見学に行っておきながら、入部しなかったのだ。
過去のことを知っているから、またなにか悩みがあるのかもしれないと、心配してくれたのだろう。
「いいんです。部活でがっつり練習するより、たまにみんなで楽しくバスケをするほうが、性に合ってたみたいなので」
中学時代とは違う環境になれば、なにかが変わると思っていた。
だけど、練習をすればするほど、楽しくなくなった。
あのころより確実にいい環境で、人間関係もうまくいきそうだった。
それでもそう感じてしまったのは、私に問題があったんだと思う。
結局、環境だけでなく、私自身がどう感じるかが大事なんだと思った。
私が楽しいと思わないと、意味がない。
だとしたら、私にとっての“楽しい”を見つけていくほうがいいに決まっている。
「それに、私だって、どんなときでも夏川先輩の傍にいたいんですよ」
すると、夏川先輩は照れて、私から視線を逸らした。
その横顔が愛おしくて、私はスマホで先輩の写真を撮った。
「……今、撮った?」
「いつも先輩がしていることです」
先輩は言葉に困って、なにも返してこなかった。
こうして先輩と過ごす時間が増えて、私のフォルダは先輩との思い出で染まりつつある。
見返すたびに、幸せな気持ちになる、幸せの宝箱。
「先輩、今日はどこに行きましょうか」
私が笑いかけると、笑顔が返ってくる。
絶望した世界が、先輩と出会えたことで、幸せな世界に変わった。
私はもう、先輩と出会う前には戻れない。
この幸せを噛み締めながら、これからも夏川先輩の隣を歩んでいく。
〈了〉
「依澄ちゃん、今日、かき氷食べに行かない? すごく美味しそうなお店、見つけたの」
期末テストが終わって、帰りの支度をしていると、詩織ちゃんが満面の笑みでやって来た。
「咲楽ちゃんと由紀ちゃんは行くって。依澄ちゃんはどう?」
「ごめん、今日は先約があって」
私が言うと、詩織ちゃんの眉尻は綺麗に下がった。
申しわけない気持ちと、嬉しい気持ちが同時に芽生える。
「また今度、誘ってね」
「次も彼氏を優先しそうだけどね」
詩織ちゃんの後ろから、意地悪な声がした。
由紀も咲楽も、まるで悪役のような笑みをしている。
約束の相手は言っていない。
それなのにわかったのは、私たちの告白シーンが学校中で噂になってしまったから。
お陰様で、私たちは全校生徒公認のカップルだ。
「……しないよ」
「どうだか」
咲楽たちは顔を見合わせる。
この二人は似た者同士みたいで、私からしてみれば、仲良くなってほしくない二人だった。
すると、落ち込んでいた詩織ちゃんは、笑顔に戻った。
「依澄ちゃん、デート楽しんできてね」
嫌味のない言葉を言ってくれるのは、詩織ちゃんだけだ。
私は、彼女の言葉だけは素直に受け入れられる。
「ごめんね、詩織ちゃん」
これ以上、咲楽と由紀にからかわれる前に、私は教室を出た。
テスト終わりで浮かれるみんなの横をすり抜け、昇降口に向かう。
先輩は先に着いていたらしい。
靴に履き替え、前髪を整えてから、先輩に声をかける。
私を見つけた夏川先輩は、相変わらず優しい眼をした。
「そういえば、バスケ部はよかったの?」
校門をくぐると、先輩が心配そうな顔で、そんな質問をしてきた。
私は、バスケ部に見学に行っておきながら、入部しなかったのだ。
過去のことを知っているから、またなにか悩みがあるのかもしれないと、心配してくれたのだろう。
「いいんです。部活でがっつり練習するより、たまにみんなで楽しくバスケをするほうが、性に合ってたみたいなので」
中学時代とは違う環境になれば、なにかが変わると思っていた。
だけど、練習をすればするほど、楽しくなくなった。
あのころより確実にいい環境で、人間関係もうまくいきそうだった。
それでもそう感じてしまったのは、私に問題があったんだと思う。
結局、環境だけでなく、私自身がどう感じるかが大事なんだと思った。
私が楽しいと思わないと、意味がない。
だとしたら、私にとっての“楽しい”を見つけていくほうがいいに決まっている。
「それに、私だって、どんなときでも夏川先輩の傍にいたいんですよ」
すると、夏川先輩は照れて、私から視線を逸らした。
その横顔が愛おしくて、私はスマホで先輩の写真を撮った。
「……今、撮った?」
「いつも先輩がしていることです」
先輩は言葉に困って、なにも返してこなかった。
こうして先輩と過ごす時間が増えて、私のフォルダは先輩との思い出で染まりつつある。
見返すたびに、幸せな気持ちになる、幸せの宝箱。
「先輩、今日はどこに行きましょうか」
私が笑いかけると、笑顔が返ってくる。
絶望した世界が、先輩と出会えたことで、幸せな世界に変わった。
私はもう、先輩と出会う前には戻れない。
この幸せを噛み締めながら、これからも夏川先輩の隣を歩んでいく。
〈了〉