ほんの数週間通らなかっただけなのに、先輩のクラスへの道は懐かしく感じた。
人が少ない廊下を走り、二年三組にたどり着く。
ドアは開いていて、教室内が見える。
何人かが勉強している中で、夏川先輩はうつ伏せになって寝ている。
その姿を見て、入るのに躊躇った。
でも、起こすのは悪いと思うけど、人が少ない今、話をしておきたかった。
教室に入って、夏川先輩の前に立つ。
夏川先輩が起きる気配はなかった。
「夏川先輩」
私が呼ぶと、先輩は目を擦りながら体を起こす。
まだ眠そうな瞳で、私を見つける。
「おはよう、古賀。今日はなんだか、いつもと雰囲気が違うね。可愛い」
寝ぼけていることもあるのか、普段の夏川先輩からは想像できないことを、とてつもなく柔らかい表情で言われた。
数ヶ月前の拒絶するような視線は、もう思い出せない。
「アルバム、ありがとうございます」
ノートを見せると、夏川先輩は照れながら笑った。
「でも、これ」
私は最後のメッセージのページを開き、見せつける。
「これは、先輩の口から聞きたいです」
すると、先輩は私の腕を引いて、教室を出た。
渡り廊下まで来ると、登校してくる生徒たちの声がよく聞こえてくる。
楽しそうな雰囲気に対して、私たちの空気感は緊張している。
いや、緊張しているのは私だけかもしれない。
夏川先輩は手すりに肘を置き、空を眺めている。
「あの、夏川先輩」
勝手にその空気に耐えられなくなって、声をかける。
先輩はゆっくりと振り向いた。
「……僕が写真を撮るのは、僕の周りの人たちの生きてきた証を残すためって、話したよね。自然な表情を撮るために、水のように、みんなの世界に溶け込む。だから、みんなの世界の名もなき登場人物になっても、構わないと思ってる」
そう語る先輩の眼に、吸い込まれそうだ。
「でも、古賀を撮るときだけは、違うんだ。どんなときでも古賀の傍にいて、いろんな古賀を見て、そのすべてを残したい。古賀の世界に、溶け込みたくない。僕は、古賀の物語の、登場人物になりたい」
夏川先輩がまっすぐ伝えてくれるから、私のほうが照れてしまう。
「古賀が好きだよ。だから、僕の彼女になってくれませんか」
嬉しい。
それだけの感情をたった一言で表しきれないと思って、私は夏川先輩に抱きついた。
耳元で、先輩の小さな笑い声が聞こえる。
「久しぶりに、古賀に突撃された」
「それ、褒めてます?」
少し離れると、夏川先輩は見たことないくらい、優しい表情をしていた。
だけど、私はこの表情を知っている気がした。
「それで、古賀……返事を聞かせてもらっても?」
私は夏川先輩と離れ、笑顔を見せる。
「私も、夏川先輩が好きです。先輩の、彼女にしてください」
すると、夏川先輩は大きく息を吐き出しながら、その場に座り込んだ。
「古賀の気持ちは知ってたけど、やっぱり緊張するものだね」
夏川先輩の困った笑顔に見惚れて、聞き流すところだった。
「知ってたって、え? どういうことですか、先輩」
「内緒」
「ちょっと、先輩?」
先輩が笑って逃げていくから、私はそれを追いかける。
気持ちを伝えあったからだろうか、私の心は軽かった。
人が少ない廊下を走り、二年三組にたどり着く。
ドアは開いていて、教室内が見える。
何人かが勉強している中で、夏川先輩はうつ伏せになって寝ている。
その姿を見て、入るのに躊躇った。
でも、起こすのは悪いと思うけど、人が少ない今、話をしておきたかった。
教室に入って、夏川先輩の前に立つ。
夏川先輩が起きる気配はなかった。
「夏川先輩」
私が呼ぶと、先輩は目を擦りながら体を起こす。
まだ眠そうな瞳で、私を見つける。
「おはよう、古賀。今日はなんだか、いつもと雰囲気が違うね。可愛い」
寝ぼけていることもあるのか、普段の夏川先輩からは想像できないことを、とてつもなく柔らかい表情で言われた。
数ヶ月前の拒絶するような視線は、もう思い出せない。
「アルバム、ありがとうございます」
ノートを見せると、夏川先輩は照れながら笑った。
「でも、これ」
私は最後のメッセージのページを開き、見せつける。
「これは、先輩の口から聞きたいです」
すると、先輩は私の腕を引いて、教室を出た。
渡り廊下まで来ると、登校してくる生徒たちの声がよく聞こえてくる。
楽しそうな雰囲気に対して、私たちの空気感は緊張している。
いや、緊張しているのは私だけかもしれない。
夏川先輩は手すりに肘を置き、空を眺めている。
「あの、夏川先輩」
勝手にその空気に耐えられなくなって、声をかける。
先輩はゆっくりと振り向いた。
「……僕が写真を撮るのは、僕の周りの人たちの生きてきた証を残すためって、話したよね。自然な表情を撮るために、水のように、みんなの世界に溶け込む。だから、みんなの世界の名もなき登場人物になっても、構わないと思ってる」
そう語る先輩の眼に、吸い込まれそうだ。
「でも、古賀を撮るときだけは、違うんだ。どんなときでも古賀の傍にいて、いろんな古賀を見て、そのすべてを残したい。古賀の世界に、溶け込みたくない。僕は、古賀の物語の、登場人物になりたい」
夏川先輩がまっすぐ伝えてくれるから、私のほうが照れてしまう。
「古賀が好きだよ。だから、僕の彼女になってくれませんか」
嬉しい。
それだけの感情をたった一言で表しきれないと思って、私は夏川先輩に抱きついた。
耳元で、先輩の小さな笑い声が聞こえる。
「久しぶりに、古賀に突撃された」
「それ、褒めてます?」
少し離れると、夏川先輩は見たことないくらい、優しい表情をしていた。
だけど、私はこの表情を知っている気がした。
「それで、古賀……返事を聞かせてもらっても?」
私は夏川先輩と離れ、笑顔を見せる。
「私も、夏川先輩が好きです。先輩の、彼女にしてください」
すると、夏川先輩は大きく息を吐き出しながら、その場に座り込んだ。
「古賀の気持ちは知ってたけど、やっぱり緊張するものだね」
夏川先輩の困った笑顔に見惚れて、聞き流すところだった。
「知ってたって、え? どういうことですか、先輩」
「内緒」
「ちょっと、先輩?」
先輩が笑って逃げていくから、私はそれを追いかける。
気持ちを伝えあったからだろうか、私の心は軽かった。