そう呟いて、僕は自分のクラスに戻った。
「おかえり、栄治。氷野ちゃんに殺されなかったみたいだな」
なにがあったのかまったく知らない佐伯が、呑気に笑う。
「氷野には、ね」
机には、蓋が閉められた弁当箱がある。
佐伯が閉めてくれたらしい。
「どういうこと? てか、なんか疲れてない?」
佐伯の質問に答えず、弁当箱を片付ける。
「昼、食べないのかよ」
弁当箱だけでなく、机の中にあるものまでカバンに入れるから、佐伯は動揺した声を出す。
「早退する」
「はあ? おい、栄治。説明しろって」
カバンを肩にかけたら、佐伯はそのカバンの紐を引っ張った。
「僕にしかできないことをするんだよ」
佐伯は余計に混乱したみたいだけど、佐伯と話す時間はもったいなくて、僕は佐伯の手を離して、教室を出た。
すれ違う人たちに不思議そうな視線を向けられながら、靴に履き替える。
「栄治、サボりか?」
「まあね」
そうやって何人の生徒から声をかけられながら、校舎を離れていく。
ふと、僕は振り返った。
ほんの一ヶ月前にははじき出されたと思っていた場所が、また大事な場所に変わった。
建物は何一つ変わっていないのに、僕の心が変わるだけで、こんなにも違うのか。
これは全部、古賀がいてくれたから。
古賀がいなかったら、僕は今でもどん底にいただろう。
古賀が素直にたくさん伝えてくれたから、僕は前を向けた。
そんな古賀のために、まだ僕にできることがあるなら、全部やりたい。
全部やって、古賀に笑ってほしい。
「……明日までには終わらせるから、待ってて」
それから僕は、外での用事を終えて家まで走った。
◇
家の鍵は開いていた。
「ただいま」
靴を揃えることもせず、家に上がる。
「栄治?」
母さんが驚いた様子で顔を覗かせた。
キッチンから甘い香りがするということは、今日もお菓子作りをしていたのだろう。
「学校はどうしたの?」
「ちょっと、やりたいことがあって早退した」
数回瞬きをして、母さんは怒ることなく微笑んだ。
「そっか」
その反応に僕のほうが驚いてしまった。
母さんはそのままキッチンに戻り、僕は部屋に向かう。
少し前に服を定位置に片付けたことで、床が見えるようになった。
僕の宝物たちは、棚に並んでいる。
居心地のいい、僕の部屋。
机の上にカバンを置き、買ってきたものたちを出していく。
「……よし」
そして僕は、黙々と作業を始めた。
「おかえり、栄治。氷野ちゃんに殺されなかったみたいだな」
なにがあったのかまったく知らない佐伯が、呑気に笑う。
「氷野には、ね」
机には、蓋が閉められた弁当箱がある。
佐伯が閉めてくれたらしい。
「どういうこと? てか、なんか疲れてない?」
佐伯の質問に答えず、弁当箱を片付ける。
「昼、食べないのかよ」
弁当箱だけでなく、机の中にあるものまでカバンに入れるから、佐伯は動揺した声を出す。
「早退する」
「はあ? おい、栄治。説明しろって」
カバンを肩にかけたら、佐伯はそのカバンの紐を引っ張った。
「僕にしかできないことをするんだよ」
佐伯は余計に混乱したみたいだけど、佐伯と話す時間はもったいなくて、僕は佐伯の手を離して、教室を出た。
すれ違う人たちに不思議そうな視線を向けられながら、靴に履き替える。
「栄治、サボりか?」
「まあね」
そうやって何人の生徒から声をかけられながら、校舎を離れていく。
ふと、僕は振り返った。
ほんの一ヶ月前にははじき出されたと思っていた場所が、また大事な場所に変わった。
建物は何一つ変わっていないのに、僕の心が変わるだけで、こんなにも違うのか。
これは全部、古賀がいてくれたから。
古賀がいなかったら、僕は今でもどん底にいただろう。
古賀が素直にたくさん伝えてくれたから、僕は前を向けた。
そんな古賀のために、まだ僕にできることがあるなら、全部やりたい。
全部やって、古賀に笑ってほしい。
「……明日までには終わらせるから、待ってて」
それから僕は、外での用事を終えて家まで走った。
◇
家の鍵は開いていた。
「ただいま」
靴を揃えることもせず、家に上がる。
「栄治?」
母さんが驚いた様子で顔を覗かせた。
キッチンから甘い香りがするということは、今日もお菓子作りをしていたのだろう。
「学校はどうしたの?」
「ちょっと、やりたいことがあって早退した」
数回瞬きをして、母さんは怒ることなく微笑んだ。
「そっか」
その反応に僕のほうが驚いてしまった。
母さんはそのままキッチンに戻り、僕は部屋に向かう。
少し前に服を定位置に片付けたことで、床が見えるようになった。
僕の宝物たちは、棚に並んでいる。
居心地のいい、僕の部屋。
机の上にカバンを置き、買ってきたものたちを出していく。
「……よし」
そして僕は、黙々と作業を始めた。