◆
「お疲れか?」
午前中の授業が終わり、弁当を机の上に出しながらため息をつくと、佐伯が同情する顔で言った。
きっと藍田さんのことだろう。
この前、氷野がはっきりと言ったことで諦めてくれたと思っていた。
でも、そんなことはなくて、藍田さんは僕を見かけるたびに声をかけてくるようになっていた。
「あの子、第二の古賀ちゃんって感じだな」
「……違うよ。全然、違う」
しつこさで言ったら、同じかもしれない。
でも、僕にとっては、全然違った。
僕の世界を認めて、僕よりも大切にしてくれた古賀と、ただ自分を撮ってほしいだけの藍田さん。
同じなわけがない。
「どうしたら諦めてくれるんだろう……」
何度も断っているのに。
僕の断り方が悪いのだろうか。
これがもうしばらく続くのだと思うと、気が重くなる。
ため息をつかずにはいられない。
「夏川栄治」
弁当箱の蓋を開けたタイミングで、廊下から名前を呼ばれた。
顔を上げると、氷野が、不機嫌なオーラを纏って立っている。
どうして氷野がここにいるのかわからず戸惑っていると、氷野は手招きをして、僕を呼んだ。
「もう、氷野ちゃんが栄治の後輩に見えなくなってきた」
「僕も」
苦笑しながら立ち上がり、氷野の元に行く。
「時間、ある?」
近付いてわかったけど、氷野はただ不機嫌なだけではなかった。
怒りの中に、切なさが見える。
「……うん」
その表情を見ると断れなくて、頷くと、氷野は僕に背を見せて歩き出した。
ついてこいということだろうと思い、氷野の背を追う。
「氷野、もしかして藍田さんのことで、怒ってる?」
氷野が不機嫌な理由はそれしか見当たらなくて、僕から切り出してみる。
だけど、氷野は歯切れの悪い返事しかしない。
「僕、ちゃんと断ってて、でも」
「わかってる。夏川栄治はなにも悪くない。あれは、アイツがしつこいだけ。まあ、夏川栄治には他人を傷付ける覚悟がないから、若干優しすぎるけど」
最後の一言は余計なお世話だ。
それにしても、わかっているのだとしたら、氷野はなにが原因でこんなにも不機嫌なのか。
僕にはわからなかった。
会話で間を持たせることもできず、たどり着いたのは昇降口近くにある外階段だった。
「ここにいて」
氷野に言われた場所は、薄暗い物陰。
「え、どういう」
僕が聞こうとすると、氷野は自分の唇に人差し指を当てた。
黙っていろということだろうけど、ますます意味がわからない。
それなのに、氷野は僕を置いて階段を登っていった。
「依澄、昼は食べた?」
頭上から、氷野の声が聞こえてきた。
古賀が、そこにいるのか。
それがわかった瞬間、僕は意味もなく口を塞いだ。
どうやら、氷野は僕に古賀との会話を聞かせようとしているらしい。
「お疲れか?」
午前中の授業が終わり、弁当を机の上に出しながらため息をつくと、佐伯が同情する顔で言った。
きっと藍田さんのことだろう。
この前、氷野がはっきりと言ったことで諦めてくれたと思っていた。
でも、そんなことはなくて、藍田さんは僕を見かけるたびに声をかけてくるようになっていた。
「あの子、第二の古賀ちゃんって感じだな」
「……違うよ。全然、違う」
しつこさで言ったら、同じかもしれない。
でも、僕にとっては、全然違った。
僕の世界を認めて、僕よりも大切にしてくれた古賀と、ただ自分を撮ってほしいだけの藍田さん。
同じなわけがない。
「どうしたら諦めてくれるんだろう……」
何度も断っているのに。
僕の断り方が悪いのだろうか。
これがもうしばらく続くのだと思うと、気が重くなる。
ため息をつかずにはいられない。
「夏川栄治」
弁当箱の蓋を開けたタイミングで、廊下から名前を呼ばれた。
顔を上げると、氷野が、不機嫌なオーラを纏って立っている。
どうして氷野がここにいるのかわからず戸惑っていると、氷野は手招きをして、僕を呼んだ。
「もう、氷野ちゃんが栄治の後輩に見えなくなってきた」
「僕も」
苦笑しながら立ち上がり、氷野の元に行く。
「時間、ある?」
近付いてわかったけど、氷野はただ不機嫌なだけではなかった。
怒りの中に、切なさが見える。
「……うん」
その表情を見ると断れなくて、頷くと、氷野は僕に背を見せて歩き出した。
ついてこいということだろうと思い、氷野の背を追う。
「氷野、もしかして藍田さんのことで、怒ってる?」
氷野が不機嫌な理由はそれしか見当たらなくて、僕から切り出してみる。
だけど、氷野は歯切れの悪い返事しかしない。
「僕、ちゃんと断ってて、でも」
「わかってる。夏川栄治はなにも悪くない。あれは、アイツがしつこいだけ。まあ、夏川栄治には他人を傷付ける覚悟がないから、若干優しすぎるけど」
最後の一言は余計なお世話だ。
それにしても、わかっているのだとしたら、氷野はなにが原因でこんなにも不機嫌なのか。
僕にはわからなかった。
会話で間を持たせることもできず、たどり着いたのは昇降口近くにある外階段だった。
「ここにいて」
氷野に言われた場所は、薄暗い物陰。
「え、どういう」
僕が聞こうとすると、氷野は自分の唇に人差し指を当てた。
黙っていろということだろうけど、ますます意味がわからない。
それなのに、氷野は僕を置いて階段を登っていった。
「依澄、昼は食べた?」
頭上から、氷野の声が聞こえてきた。
古賀が、そこにいるのか。
それがわかった瞬間、僕は意味もなく口を塞いだ。
どうやら、氷野は僕に古賀との会話を聞かせようとしているらしい。