翌朝、スマホの目覚ましはいつもより一時間ほど早く鳴り始めた。

 普段起きる時間ではないから、まだ瞼が重たい。

 でも、まずは体を起こして目覚ましを止める。

 予定より五分遅い目覚めだけど、おおむね予定通り。

 ベッドを降りて、洗面所に向かう。

 昨日、咲楽たちに教えてもらった手順で洗顔をしていく。

 スキンケアと言われるものは、私にとって面倒なものだった。

 だけど、必要なことらしいから、言われた通りに進めていく。

 ここまでは覚えていたけど、メイクの手順までは覚えていない。

 スマホで咲楽とのトークルームを開き、手順を確認する。

 メイクをする前に、着替えるように注意書きがある。

 私は自室に戻って、制服に着替えた。

 自分の部屋にも手鏡があることを思い出し、ここでメイクをすることにした。

「あれ、今日は早いね。どうしたの?」

 ある程度道具が揃ったところで、部屋の外から声がした。

 ドアを開けっぱなしにしていたから、お母さんは驚いた表情で、そこに立っている。

「お母さん、おはよう」
「おはよう。それ、メイク道具?」

 わからないままにローテーブルの上に広げていたそれらを、お母さんは不思議そうに見る。

「ちょっと、ちゃんと見た目を整えようと思って。あ、お金は大丈夫。何個か咲楽に借りたし。それに先生たちに怒られないくらい、薄めにするから」

 怒られると思ってしまって、言い訳をしているように言った。

 そのせいか、お母さんは小さく口角を上げた。

「メイクするくらいで、怒らないよ。わからないことがあったら、なんでも聞きなさい。あと、遅刻しないようにね」

 そしてお母さんは、私の部屋の前を通り過ぎて行った。

 お母さんの優しさに少し泣きそうになったけど、両頬を軽く叩いて、気合いを入れる。

 まずは、下地。濃くしすぎないように、少しずつ塗るようにと書いてある。

 半分塗ってから、全然印象が違うことに気付く。

 ほんのわずかでも、こんなに変わるのか。

 これは咲楽がすっぴんはイヤだと言うのも、わかるかもしれない。

 下地を塗り終えると、次はアイシャドウ。何色も塗るとバレちゃうから、一色だけ。筆を使って、目の周りに色を乗せていく。

 それから、アイライン。咲楽が初心者向けで私に似合う色を選んで、プレゼントしてくれたもの。

 アイラインは難しくて、すぐには完成しなかったけど、いい感じに仕上がったと思う。

 最後は、口紅。

 だけど、結構濃い色に見えて、私はそれを付ける勇気がなかった。

 代わりにリップクリームを塗っても、悪くない仕上がりだ。

 見た目が整うだけで、こんなにも気分が上がるなんて、知らなかった。

 髪型もアレンジしたかったけど、そこまではやり方を聞いていなかったから、櫛を通して終わった。

 スクールカバンを持って、部屋を出る。