「そのとき、栄治くんに言われたの。無理に遥哉くんに合わせる必要はない。今の私でも、十分魅力的な人だって」

 そのセリフは、かっこよすぎる。

 今の私の不安まで、取り除いてくれる。

「栄治くんは一人一人のいいところを見つけて、それを写すのが上手な人だから、余計に自信がついた。そしてこの写真をお守りに、私は遥哉くんに言えたの」

 柚木先輩に幸せな表情が戻る。

 前に見たときは可愛らしいとしか思わなかったけど、今は羨ましいと思った。

 私も、柚木先輩のように幸せになれるだろうか。

 いや、なりたい。

「そんなふうに言ってくれる栄治くんだから、きっと、不釣り合いだとか思わないはずだよ。まずは依澄ちゃんの素敵なところで勝負してみて、いいと思う」
「私の、素敵なところ……」

 自分ではわからなくて、呟いた次の言葉が出てこなかった。

「素直。笑顔。可愛い」

 すると、間髪入れずに咲楽が言った。

 咲楽が真剣に言うから、照れてしまう私がおかしいみたいに思ってしまう。

「そうだね。依澄ちゃんは、笑顔が素敵」

 柚木先輩が笑いかけてきて、笑顔を促されている気がしたけど、私は上手く笑えなかった。

 二人の視線から逃げるように、まだ口をつけていなかったカフェオレを飲む。

 氷が溶けてしまって、若干薄味になっていた。

「そうだ。依澄ちゃんは、栄治くんのどんなところが好きなの?」

 この照れくさい時間は、まだ続くらしい。

 柚木先輩に言われて考えてみるけど、これといったものが思い浮かばない。

「夏川先輩は……私の光みたいな存在で。憧れだったはずなんですけど……夏川先輩のことを知っていくうちに、ただの憧れじゃなくなったというか……」

 咲楽は聞きたくないという表情で、柚木先輩は微笑ましく私を見ている。

「どこが、とか、わからないです。私は、夏川栄治という人が好きだと思ったんです」

 ちゃんと言葉にすると、夏川先輩に会いたくなってきた。

 会って、伝えたい。

 だけど、もう少しだけ、自信が欲しかった。

「あの、柚木先輩。咲楽も。簡単なものでいいので、メイクのやり方を教えてください」

 メイクで自信がつくのか、わからない。

 でも、咲楽がいつか言っていた。

『メイクは、私を強くするための手段だから』

 その言葉を信じたい。

「私はいくらでも協力するよ」

 柚木先輩は咲楽に視線を移す。

 咲楽はまた氷で遊んでいる。

 りんごジュースが減ったことで、氷がグラスに当たる音がした。

「……わかった」

 咲楽は仕方ないという顔をして、そう言ってくれた。

「ありがとう、咲楽」

 咲楽が承諾してくれたのが、自分でも思っているより嬉しかったみたいで、自然と笑顔がこぼれた。