流れるように暴露したから、思わず聞き逃すところだった。

 でも、柚木先輩に夏川先輩のタイプを聞いた時点で、柚木先輩も察していたのだろう。

 話を聞きながら、頷いている。

 咳払いをして、一旦恥ずかしさを誤魔化す。

「今はまだ、自分に自信がないから言わない。ちゃんと、夏川先輩の隣に立つ自信を持ってから、言いたいの」

 それは、私なりのプライドだった。

「そんなの待ってたら、誰かに取られちゃうよ。夏川栄治が欲しいって、本人に言ってる人、いたし」

 その内容と裏腹に、咲楽は呑気にストローで氷を押して遊んでいる。

「咲楽、それ、本当?」
「本当」

 咲楽にとっては興味のないことなのは、わかる。

 だから、淡々と話すのは当然だと思う。

 でも、私にとってはどうでもいいことではなくて、その温度差に、思っていることを言っていいのか、わからなくなる。

「依澄ちゃん。自分に自信がないとダメっていうのは、私もわかるよ」

 柚木先輩でもそんなふうに感じていたのは、意外だと思いながら、続きを聞く。

「遥哉くんって、カリスマ性みたいなの凄いでしょ。他人を寄せ付けないオーラというか」

 私は正直に頷いた。

「だからね、遥哉くんに釣り合うような人にならないと、告白しちゃダメだって、勝手に思ってたの。みんなもそう思ってるだろうって、勝手に決めつけて」

 まさに私と同じ状況だった。

 私は真剣に、柚木先輩の話に耳を傾ける。

「でも、そんな暗黙のルールみたいなのを破って、遥哉くんに想いを告げた人がいたの。そのとき、目が覚めた。私の準備が整うのを、周りは待ってはくれないんだって」
「じゃあ、すぐに告白したんですか?」

 柚木先輩は首を横に振る。

 そして、困ったように笑みを浮かべた。

「怖くて、できなかった」

 柚木先輩は過去を思い返しているのか、そっと視線を落とした。

「そうやって心の中に溜め込んでいた私の気持ちは、栄治くんに気付かれた。あの、文化祭で飾られてた写真を撮られたときだよ」

 あれは、恋人が告白されているところではなくて、好きな人が告白されているところだったのか。

 それはたしかに、あんな不安な視線になる。

「そのとき、栄治くんは私に遥哉くんの写真を見せてくれたの。私も見たことがないくらい、優しい眼をしている写真だった」

 柚木先輩は言いながら、スマホを見せてくれる。

 私と咲楽はそれを覗き込む。

 ロック画面が、遥哉先輩の写真だ。

 私の知っている眼とは違う、穏やかな瞳をした横顔だった。

「この視線の先に、私がいるんだって」

 柚木先輩は照れながら、スマホを引く。

『花奈さんのはハル兄、ハル兄のは花奈さんにだけ見せていたから』

 これを聞いたとき、恋人の写真を誰にも見せたくない思いに応えているのかと思った。

 でも、違う気がした。

 これは、他人に見せる写真ではない。

 お互いだけが知っておくだけで十分な写真だ。