「栄治くんって、意外と来る者拒まずだった気がする」

 日曜日の午後、少しでも夏川先輩の好みの人物に近付きたくて、柚木先輩と咲楽と出かける約束をした。

 柚木先輩のオススメのカフェに入り、早速ストレートに夏川先輩のタイプを聞いた返答が、それだった。

「来る者拒まず……」

 夏川先輩がそんなに軽い恋愛をしてきたことに、軽くショックを受けた。

 私たちが注文した飲み物が届き、柚木先輩はカフェオレを飲む。

「栄治くんは、遥哉くんとは違って親しみやすくて、告白がしやすかったんじゃないかな。あと、栄治くんは断るのがニガテな人だから」
「そうなの?」

 咲楽のほうが、私より先に反応した。

 咲楽はスマホで写真を撮ることに集中していると思っていたのに、違ったらしい。

「多分ね。告白されるたびに、悩んでたから」

 咲楽はどうでもよさそうに返して、撮影を再開する。

 柚木先輩の印象に残るくらい、夏川先輩が人気だったとは知らなかった。

 でも、クラスマッチの撮影会のときみたいなことを普段からしているのだとしたら、夏川先輩がモテるというのも、頷ける。

「まあ、栄治くんは誰のことも特別扱いしなかったから、よく振られてたんだけど」

 柚木先輩はそのときのことを思い出しているのか、苦笑する。

 ただ、これはどう反応すればいいのかわからない。

「役に立てなくてごめんね、依澄ちゃん」
「いえ、そんなことは」

 柚木先輩は優しく、かつ楽しそうに微笑んでいて、私は言葉を切った。

 そんな視線を向けられる理由がわかるからこそ、急に照れくさくなる。

「ねえ、依澄ちゃんはメイクとかしないの?」
「ダメだよ、花奈さん。依澄はオシャレには興味持ってくれないから」

 私ではなく、咲楽がつまらなさそうに言った。

「そう? 私はそうは思わないけどなあ」

 その視線から“夏川先輩に可愛いと思われたくない?”と言われているような気がする。

 ここまでお見通しなら、隠すだけ無駄だろう。

「……少しだけ、興味あります」

 咲楽は驚きを隠さなかった。

 そして、口を尖らせた。

「夏川栄治のせいで、依澄がどんどん変わってく」
「栄治くんのおかげ、じゃなくて?」

 柚木先輩に言われて、咲楽はますます不機嫌になる。

 そんな咲楽の頭を、柚木先輩は撫でた。

「咲楽ちゃんは寂しいんだね」

 咲楽は不貞腐れたまま、りんごジュースに刺さったストローを咥える。

 飲まずに、息を吹き出したことで、コップの底から泡が上がってくる。

「咲楽、私にメイクとか、服のこと教えてくれる?」

 まだ、咲楽の機嫌は直らない。

 相変わらず、咲楽のご機嫌取りは難しい。

「私、咲楽に教えてほしいな」

 すると、咲楽はストローから口を離した。

 なんとか成功したことに、私は安心する。

「依澄は笑顔が可愛いから、オシャレしなくてもいいよ」

 さすがに、その返答は予想していなかった。

「ていうか、好きって自覚したのに、まだ言わないなんて、依澄らしくない」