これは、あまり嬉しい感想ではないと思ってしまった。

 藍田さんには僕が見えていないのか、どんどん話が進められる。

「夏川センパイの撮る夢莉を投稿していったら、絶対に氷野咲楽を越えられる。だから、センパイ。夢莉の専属カメラマンになってください」

 前の僕なら、相手を傷付けないように、空気を読んで、“正解”の言葉を選んだだろう。

 なんなら、僕の気持ちを押し殺して、引き受けた。

 でも、今は違う。

 正直に伝えることの大切さを知っているし、なにより、古賀を撮りたいという思いが強いから、引き受けようと思わなかった。

「ごめんね。僕、そういうことはしていないんだ」

 必死に言葉を選んで断ると、さっきまで笑っていた藍田さんが、急に無表情になった。

「夏川センパイ、氷野咲楽と知り合いですよね。氷野咲楽には協力しておきながら、夢莉には協力しないって、不平等じゃないですか」

 勝手にそんな責め方をする、君のほうが理不尽だと思う。

 そんなことを思ったけど、心を落ち着かせて、言葉を飲み込む。

「SNSのことで氷野に協力をしたことは、一度もないよ」

 藍田さんは疑いの目を向けてくる。

 でも、これ以上の説明もできそうにない。

「アンタがそんなだから、フォロワーが増えないんじゃないの」

 困ったところで、厳しい声が聞こえてきた。

 声がしたほうを見ると、中庭に氷野がいる。

 氷野は泥だらけのバスケボールを真上に投げて遊んでいる。

 泥だらけになるだろうに、氷野がそんなことをしているのは、意外だった。

「氷野咲楽……聞いてたの」

 藍田さんは敵意丸出しで、氷野を睨む。

「聞いてたんじゃなくて、アンタの甘ったるい声が聞こえてきたの」

 だけど、氷野は一切気にしていないようだ。

 藍田さんのほうを見ることなく、ボールを投げ続ける。

「アンタがお願いしてること、主張してることって、かなり自分勝手だよ。ただのわがまま。だから周りがついてこないし、フォロワーが減ってく」

 やはり、氷野の言葉は胸に刺さる。

 容赦のない言葉に、藍田さんは言い返せず、怒りを堪えている。

「夏川栄治も言ってあげなよ。アンタの作り笑いなんかより、依澄の笑顔が撮りたいって」

 氷野は僕を見て、悪い顔をしている。

 このタイミングで、僕に振ってほしくなかった。

「いや、僕は……」

 今にも喧嘩が起きてしまいそうな雰囲気で、僕は結局空気を読み、はっきりと言えなかった。

「……もういい」

 藍田さんは、拗ねた表情を残して、去っていった。

「……氷野だって、自分勝手だろ」

 ため息混じりに言うと、氷野はまた、ボールで遊び始めた。

「まあね」

 氷野はまったく僕のほうを見ようとしない。

 ボールを真剣に見る横顔には不思議な引力があって、僕はカメラを向ける。