「夏川君が来るようになったのに、古賀さん、来ませんね」

 部活に参加するようになってから数日が経ち、部室でカメラの準備をしていると、矢崎先生がふと思い出したように言った。

 それは僕も気にしていたことだから、あまり触れてほしくなかった。

 写真部どころか、古賀が放課後に僕のところに来る機会すら、減っていたから。

「夏川に興味がなくなったんじゃない?」

 香田部長は、容赦なかった。

 古賀は自分の言葉にトゲがあって、他人を傷つけてしまうと悩んでいたみたいだけど、僕からしてみれば、氷野や香田部長のほうが、トゲがあると思う。

 香田先輩は純粋に言っているから、余計にタチが悪い。

「古賀ちゃんが栄治の写真に興味なくなるとか、絶対ありえないですよ」

 確証もないのに、佐伯は言い切った。

「そうなの?」
「あんなにもまっすぐに、好きだって伝えて来た人が、そう簡単に心変わりはしないと思うんで」

 佐伯が反論して、僕は古賀の話を思い出した。

 古賀にとって、僕の写真はそう簡単に、どうでもよくなるものではないだろう。

 ただ、古賀が僕に興味あるかどうかは、きっと別の話だ。

 僕の過去を聞いて、嫌気がさした可能性だってある。

 思っていることをはっきり言えない姿がかっこ悪いとか。現実と向き合えないような臆病者だとか。

 そんなふうに、思われたのかもしれない。

 自分で考えて、僕は勝手に落ち込む。

 つい、ため息をついてしまった。

「ご、ごめん、夏川。そんな落ち込むとは思わなくて」
「いえ、気にしないでください」

 作り笑いを浮かべ、その場の空気に耐えられなくなってきたので、カメラを持って部室を出る。

「栄治、大丈夫か?」

 あとからついてきた佐伯が、心配そうに聞いてくる。

「あー……どうだろう。古賀に飽きられたかも、とか嫌われたかも、とか考えたら、なんか苦しくなって」

 正直に言って、僕は余計なことを言ってしまったかもしれないと思った。

 これは、古賀のことが好きだって言っているようなものじゃないか。

「栄治の考えすぎだって。あの古賀ちゃんが、栄治に飽きるわけがないだろ」
「でも僕、去年のこと、話したんだ。古賀ははっきりと言わない僕を、よく思ってない。だから……」

 吹奏楽部に行ったとき、古賀は逃げた僕を責めた。

 言いたいことは言わなければ伝わらないと、苦しそうに訴えた。

 古賀は、僕の写真は好きでも、僕のことはそうでもないのだろう。

 そんなことを考えてしまうと、胸が苦しくて仕方ない。

 そうやってぐだぐだ悩んでいると、佐伯は遠慮なくデコピンをしてきた。

「ちょっと、力加減してよ」
「悩みを吹っ飛ばすにはちょうどいいだろ」

 佐伯は明らかに不満そうにしている。

 どうして佐伯が不機嫌なのか、僕にはわからなかった。

「もっと、古賀ちゃんのこと信じてやれよ。栄治のバカ。アホ。弱虫」

 小学生レベルの悪口が並べられた中で、“弱虫”が一番効いた。