ほかのみんなも喜んでくれていて、シュートは成功して当たり前という空気だった記憶が、塗り替えられていく。

 なんだか、わくわくしてくる。

「咲楽。ぶちかまそうか」

 楽しくなってきた私は、さっきの咲楽に言われた言葉と似たものを返す。

 咲楽はにやりと笑った。

 お互いにバスケに触れていなかった時期が長いから、現役時代のように動くことはできていない。

 それでも、最高に楽しかった。

 スリーポイントシュートを狙ってみたり。

 その場の勢いで浅見さんを「由紀」と呼んでみたり。

 咲楽とスピードで無双してみたり。

 どんなことも楽しくて、気付けば失敗なんて怖くなかった。

 やっぱりバスケが好きだと再確認したこの試合の結果は、私たちの負けとなった。

「あと一点とか、悔しすぎる!」

 咲楽はコートを出ると、周りに気を使わずに叫んだ。

「でも、すごく楽しかった」
「私を呼び捨てにするくらい?」

 私に続けた浅見さんの言い回しは、少しだけ意地悪だった。

 一緒にバスケをした効果か、その意地悪に怯える私はいなかった。

「ごめんね、勢いでつい」

 そんな私たちのやり取りを見て、柊木さんが微笑んでいた。

「それくらい許してあげなよ、由紀ちゃん」
「そうそう。カリカリしないで、ユッキー」

 柊木さんに対して、咲楽はからかうつもりしかない言葉。

 咲楽らしい悪い笑顔だ。

「ほら、ユッキーは呼ばないの? 依澄って」

 咲楽が煽ると、浅見さんは堪えているように見えた。

 咲楽はますます楽しそうに、浅見さんをからかい始める。

「古賀、お疲れ様」

 それを微笑ましく思いながら見ていると、夏川先輩に声をかけられた。

「かっこよかったよ」

 その褒め言葉が嬉しくて、口元が緩む。

 個人的にはかっこいい見せ場は少なかった気がするけど、夏川先輩に言われると、照れくささが勝った。

「夏川栄治、写真撮って」

 咲楽は人前だというのに、夏川先輩のことを呼び捨てにした挙句、若干命令口調で言った。

 優しい夏川先輩は気にせず、私たちにカメラを向けてくれる。

 全員の集合写真や、咲楽とのツーショットといった、たくさんの写真を撮ってくれた。

 私と咲楽以外とは初対面なはずなのに、夏川先輩はあっという間に打ち解けて、みんなの笑顔を写真に収めていた。

 とんでもない、人たらしだ。

 でも、夏川先輩がこうして緊張を解してくれるから、あんなにも素敵な写真になるのだと思うと、さすがだと思った。

「楽しかった?」

 一通り写真を撮って、夏川先輩は私に聞いた。

「はい、すっごく楽しかったです」

 自分でもわかるくらい、全力の笑顔を見せた。

「そっか、よかった」

 対して、夏川先輩が優しく微笑んだことで、私の顔は熱くなる。

 これが、運動後だったり、体育館の熱気のせいではないことくらい、わかる。

「じゃあ、次があるから、僕はもう行くね」

 夏川先輩はそれに気付いていないのか、笑顔で去っていく。

「依澄、どうした?」

 夏川先輩の背中を見送っていると、咲楽は不思議そうに聞いてきた。

「咲楽……私、夏川先輩が好きだ」

 思ったことをただ正直に告白すると、咲楽は複雑そうな顔をしていて、私は照れるより先に、笑ってしまった。