「でも……怖いです。また失敗したらどうしようって、考えるだけで怖いです」

 私の声は、少しだけ震えていた。

 中学時代の知り合いはここには少ないはずなのに、誰かに見張られているような気分。

 さっきの清々しい気分が、どこかに消えてしまっている。

 空気が薄くなってきた気がして、若干、呼吸が乱れる。

「僕も、また拒絶されたら……前みたいにみんなの和に入れなかったらどうしようって、怖かったなあ」

 対して、先輩の声は変わらず穏やかだった。

 本当に怖いと思っていたのだろうかと疑いたくなるくらい、落ち着いた声だ。

「でも案外、不安に思ったようなことにはならなかった。みんな、僕たちが思っているほど、僕たちのことに興味がない」

 励ましの言葉でも綺麗事でもなかった。

 ただの先輩の感想だからだろうか。

 その言葉は、自然と私の心に入ってきた。

「なにより、古賀が真剣に取り組む姿はちゃんとみんなに届いてるから、古賀が失敗しても、誰も責めないと思うよ」

 失敗をしたら、責められる。

 そんな記憶が強すぎて、私は信じられなかった。

「依澄」

 次の言葉を探していると、咲楽が階段を登ってきた。

「そろそろ試合始まるけど、行けそう?」

 その表情は心配を表している。

 申しわけなく思うと同時に、嬉しかった。

 私には、これほど心配してくれる人がいるのだと思うと、心強い。

 きっと、夏川先輩も私のことを心配して、ここに来てくれたのだろうし。

 こんなにも私の味方をしてくれる人がいるなら、大丈夫な気がしてくる。

 気持ちをリセットするように、大きく息を吸って、吐き出す。

 うん、大丈夫だ。

 勢いのまま、立ち上がった。

「夏川先輩、私の活躍、見ててくださいね」

 先輩は驚いた顔をした後、笑顔を返してくれた。

「任せて。最高の写真を残すよ」

 先輩に写真を撮ってもらえる。

 それはつまり、先輩の世界に入れるということ。

 私が憧れた、明るい世界。

 プレイの記録が残ることは嫌なはずなのに、憧れた世界に入れてもらえるのだと思うと、嬉しくなる。

 だから私も、先輩に笑顔を返した。

 そして私は咲楽と一緒に、体育館に向かう。

「もう大丈夫そう?」
「うん。夏川先輩と話して、少しだけ気が楽になったというか、頑張れそうな気がしてきたから」

 私の言葉に咲楽が優しい笑顔を見せるから、私も自然と笑顔を返した。

 そして体育館に着くと、もうみんな集まっていた。

「古賀さん、氷野さん」

 柊木さんは私たちに気付くと、手を挙げた。

 その笑顔に誘われるように、柊木さんのところに行く。

「柊木さん、次の試合はどうするの?」

 咲楽が聞いたことで、私は自分が補欠であったことを思い出した。

「古賀さん、出る?」
「いや、でも……」

 出たいという気持ちはあるけど、出しゃばる気はなかった。

 すると、柊木さんはくすくすと笑った。

「古賀さん、全然クールじゃないんだね」

 嘲笑う感じではなく、ただの感想みたいなもの。

 どうしてそんなことを言われたのかわからなかった。

「いいよ、古賀さんが出て。私より活躍してくれそうだもん」
「ありがとう。失敗したら、ごめん」