それに関しては、後悔したって仕方ないとわかっているけど、後悔してしまう。

 でも、古賀を止めなければよかったとは、思わない。

 もしあのままだったら、篠崎さんの表情を見て、古賀はまた自分を責めていただろうから。

「……わかってる。でも、依澄自身が自分を責めてるなら、私はただ、依澄に寄り添うだけ」

 僕には、氷野が共に地獄に堕ちる覚悟を決めているように見えた。

「今の古賀にはきっと、寄り添うだけじゃなくて、引っ張り上げてくれる存在が必要だよ」

 氷野は僕の発言が気に入らなかったようで、僕を睨む。

「……なに? 夏川栄治も、正論を突きつけるタイプ? 依澄に正直すぎはダメとか言っておきながら」
「いや……そんなつもりは……」

 氷野の迫力に圧倒されて言い淀んでしまった。

 ただ、これは正論というより、僕自身の体験から、そう考えずにはいられなかったことだった。

 あのころの佐伯は、僕の味方でいてくれただけでなく、僕を引き上げようともしてくれた。

 佐伯だけじゃない。矢崎先生もだ。

 でも僕は、立ち上がれなかった。立ち上がる勇気がなかった。

 そんな弱虫な僕の背中を押してくれたのが、他でもない、古賀だ。

 古賀がいてくれたから、僕は今、こうして写真を撮れている。

 だから、古賀にも背中を押してくれる誰かが、必要なんだと思う。

「夏川栄治が、依澄を引っ張り上げてくれるんでしょ」

 氷野はため息混じりに言い、僕に背を向ける。

「依澄、昇降口の近くにある外階段に居るから。今度こそ、言葉を間違えたら許さない」

 そして氷野は僕から離れていく。

 最後まで氷野は、僕を敵視しているような態度だった。

 だけど、あんなふうに言ってくれたということは、少しは信用してくれたのかもしれない。

 そんなことを思いながら氷野の背中を見送っていると、試合終了の笛が鳴った。

「……しまった」

 僕のカメラには、ほとんど今の試合の写真が残っていなかった。

 試合を頑張った人たちには申しわけないと思いつつ、僕はその場を離れる。

 氷野に教えてもらった場所に行くと、古賀は外階段で膝を抱えて座っていた。

 言われていなければ見つけられなかっただろう。

「……古賀」

 僕が声をかけたことで古賀は顔を上げる。

 落ち込んでいることは、見ればわかった。

「夏川先輩……」

 表情だけでなく、声までも泣きそうだ。

 僕は階段を登り、古賀の隣に座る。

「氷野に聞いたよ」

 古賀は視線を泳がせて、また丸まった。

 これほど落ち込んでいる古賀に、なにを言えばいいのだろう。

 いろいろと伝えたいことはあるはずなのに、古賀を前にすると、どれも言うと傷付けるような気がしてくる。

 僕も古賀も言葉を発しないから、ただ時間が過ぎていく。

『私、夏川先輩の写真、好きです』

 ふと、古賀のまっすぐな言葉を思い出した。

 そうだ。僕が思っていることを、正直に言えばいい。

 下手に取り繕うよりもきっと伝わるだろうし、迷ってしまって不信感を与えるより、全然いい。

 ただ、どうやって話を切り出せばいいのかが、わからない。

 どんな話なら、古賀は耳を傾けてくれるだろうか。

「ねえ、古賀。少しだけ、僕の過去話に付き合ってくれる?」

 古賀がずっと知りたそうにしていたことを思い出して、僕は古賀にすべてを話した。