僕はあのとき、古賀のことを考えながら話をしていたつもりだ。
だけど、古賀のことを知らないから、知らない間に古賀を傷付けていたのかもしれない。
「もう、古賀を傷付けたくないんだ……」
僕の声は小さかった。
僕の言葉のせいで、古賀が笑わなくなってしまった。
氷野が告げたそれが、喉に刺さった魚の骨みたいに、ずっと心に引っかかっている。
でもきっと、言われたほうの苦しみは、こんなものではないのだろう。
古賀が今でも苦しんでいると思うと、胸が張り裂けそうだ。
「……それ、仕事なんじゃないの?」
ふと、氷野は僕のカメラを指さした。
「そう、だけど……」
どうして氷野がそんなことを気にするのかわからなくて、戸惑いながら答える。
「仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする。ちゃんと働いてきて。その間に、依澄に今のこと伝えておくから」
氷野は言いながら、僕の横を通り過ぎていく。
「ありがとう」
僕が氷野の背中にお礼を言っても、氷野は反応しなかった。
きっと届いているだろうと信じて、僕はサッカー場に向かった。
◇
「抜け殻みたい」
試合の盛り上がりに置いていかれながら、サッカー場の隅でただシャッターボタンを押していたら、横から僕を嘲笑するかのような声が聞こえてきた。
氷野が隣に来たことに気付かないくらい、僕はボーッとしていたらしい。
「よく、僕がここにいるってわかったね」
氷野は試合のほうに視線を向けているけど、その目にはなにも映っていないように感じる。
心配になるくらい、ただ遠くを眺めている。
「佐伯センパイに聞いた」
声に気力がなくて心配になってしまう。
ただ一つ、それよりも気になることがあった。
「あの……どうして佐伯はセンパイって付けるのに、僕は呼び捨てなの?」
前に『夏川センパイ』と呼ばれた記憶があるからこそ、不思議でならなかった。
「中学のときからずっとそう呼んでたから」
氷野の言い方的に、フルネームで呼び捨てをしていることに、罪悪感は抱いていないようだ。
ただ、僕は中学時代の氷野に会った覚えはない。
だから、どういうことか尋ねようと思ったけど、なんとなく予想がついたから、やめた。
「手、止まってる」
氷野はカメラを指す。
この状況で写真を撮れだなんて、無茶を言う。
『仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする』
反論してやろうかと思ったけど、僕はその言葉を思い出し、ファインダーを覗く。
さっきよりも集中できなくて、まともに写真なんて撮れたものじゃない。
「夏川栄治は、依澄のこと好きなの?」
「え……え?」
声援に紛れて聞こえてきた言葉に驚き、氷野を見る。
氷野は無表情のようで、なにを考えているのか、まったく読み取れない。
ここまで感情が見えない子ではなかったはずなのに、なにが氷野をこんなふうにしているのか、気になって仕方ない。
「だって、依澄には笑っててほしいって言ってたから」
「いや、まあ……そうだけど……でもなんで?」
すると、氷野は懐かしそうに微笑んだ。
僕の質問に答えてくれる気はないらしい。
だけど、古賀のことを知らないから、知らない間に古賀を傷付けていたのかもしれない。
「もう、古賀を傷付けたくないんだ……」
僕の声は小さかった。
僕の言葉のせいで、古賀が笑わなくなってしまった。
氷野が告げたそれが、喉に刺さった魚の骨みたいに、ずっと心に引っかかっている。
でもきっと、言われたほうの苦しみは、こんなものではないのだろう。
古賀が今でも苦しんでいると思うと、胸が張り裂けそうだ。
「……それ、仕事なんじゃないの?」
ふと、氷野は僕のカメラを指さした。
「そう、だけど……」
どうして氷野がそんなことを気にするのかわからなくて、戸惑いながら答える。
「仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする。ちゃんと働いてきて。その間に、依澄に今のこと伝えておくから」
氷野は言いながら、僕の横を通り過ぎていく。
「ありがとう」
僕が氷野の背中にお礼を言っても、氷野は反応しなかった。
きっと届いているだろうと信じて、僕はサッカー場に向かった。
◇
「抜け殻みたい」
試合の盛り上がりに置いていかれながら、サッカー場の隅でただシャッターボタンを押していたら、横から僕を嘲笑するかのような声が聞こえてきた。
氷野が隣に来たことに気付かないくらい、僕はボーッとしていたらしい。
「よく、僕がここにいるってわかったね」
氷野は試合のほうに視線を向けているけど、その目にはなにも映っていないように感じる。
心配になるくらい、ただ遠くを眺めている。
「佐伯センパイに聞いた」
声に気力がなくて心配になってしまう。
ただ一つ、それよりも気になることがあった。
「あの……どうして佐伯はセンパイって付けるのに、僕は呼び捨てなの?」
前に『夏川センパイ』と呼ばれた記憶があるからこそ、不思議でならなかった。
「中学のときからずっとそう呼んでたから」
氷野の言い方的に、フルネームで呼び捨てをしていることに、罪悪感は抱いていないようだ。
ただ、僕は中学時代の氷野に会った覚えはない。
だから、どういうことか尋ねようと思ったけど、なんとなく予想がついたから、やめた。
「手、止まってる」
氷野はカメラを指す。
この状況で写真を撮れだなんて、無茶を言う。
『仕事より依澄を優先したら、依澄が気にする』
反論してやろうかと思ったけど、僕はその言葉を思い出し、ファインダーを覗く。
さっきよりも集中できなくて、まともに写真なんて撮れたものじゃない。
「夏川栄治は、依澄のこと好きなの?」
「え……え?」
声援に紛れて聞こえてきた言葉に驚き、氷野を見る。
氷野は無表情のようで、なにを考えているのか、まったく読み取れない。
ここまで感情が見えない子ではなかったはずなのに、なにが氷野をこんなふうにしているのか、気になって仕方ない。
「だって、依澄には笑っててほしいって言ってたから」
「いや、まあ……そうだけど……でもなんで?」
すると、氷野は懐かしそうに微笑んだ。
僕の質問に答えてくれる気はないらしい。