ふと横から声が聞こえてきて、見るとそこにはカメラを持った夏川先輩がいた。

 会うのは、夏川先輩の誕生日以来だ。

 あれからすぐにテスト期間に入ったことで話せていないから、妙に気まずさを感じてしまう。

 でもそれは私だけのようで、夏川先輩はコートにカメラを向ける。

『カメラを持ってるときの栄治が、一番輝いてるから』

 夏川先輩の横顔を見て、佐伯先輩の言葉を思い出した。

 いつか見てみたいとは思っていたけど、今の私には、この夏川先輩は眩しすぎる。

「古賀は応援?」

 夏川先輩が少しだけ視線をずらしたことで、目が合ってしまう。

 慌てて目を逸らして、試合の様子を見ながら答える。

「……私、バスケはやらないって決めてるので」

 ほんの少し、本音をこぼす。

 先輩からはなにも返ってこない。

 困らせているのだろうけど、上手に誤魔化す自信もなく、私たちの会話は終わる。

 全意識を左側に持っていかれそうで、試合に集中ができなかったそのとき、歓声ではなく悲鳴に近い声が上がった。

 私のクラスの子が、柊木(ひいらぎ)さんが倒れている。

 みんなが柊木さんを心配するように集まっているのを見ながら、私は不安に飲み込まれそうになっていた。

「古賀? 顔色悪いけど、どうした?」

 夏川先輩のほうを向くと、夏川先輩は心配そうに私を見ている。

「古賀さん、交代できる?」

 言葉に困っていると、いつの間にか私のところに来ていた浅見さんが言った。

 その奥から、私を待っているような視線を感じる。

 咲楽だけが、私を心配する表情を浮かべていた。

「ケガした子がいるのに、続けるの?」

 私の迷いを読み取ってくれたのか、夏川先輩が言った。

 夏川先輩に話しかけられるとは思っていなかったようで、浅見さんは少し戸惑いながら答える。

「少し捻っただけみたいですし、本人もこの程度で大騒ぎにしたくないって言ってるので」
「……わかった」

 ここで時間を使うことだって、望まれていないだろう。

 そう思って私は腹を括り、コートに入る。

「依澄、無理はしないでね」

 すぐに咲楽は駆け寄ってきて、優しく声をかけてくれる。

 私が頷くと、それぞれポジションに付く。

 そして私は目を閉じて、深呼吸をする。

 大丈夫。ここは、過去とは違う。

 そう言い聞かせて、目を開いた。

 相手ボールで試合は再開する。

 あのころ対峙していた選手たちよりも、当然スピードは遅く、私は相手がパスを出したタイミングで、ボールを奪う。

 ドリブルをし、ディフェンダーを避けながら進んでいく。

 久しぶりにボールを触ったけど、身体が覚えているみたいで、衰えていなかった。

 ゴール下に着き、あとはシュートするだけ。

 ボールを頭の上に持ってきて、膝を曲げる。

 そのとき、失敗する映像が頭の中に流れた。

『ずっと下手だよね。いつも大事なところで失敗する。アンタ、練習が足りないんじゃない?』

 余計なことまで思い出して、私の身体は完全に、動けなくなってしまった。