あれから数週間が経った。

「最高のクラスマッチ日和だ」

 教室で体操服に着替えた咲楽は、窓際に立ち、青空を見上げて言った。

 私はそんな気分にはなれないけど、つい先日中間試験が終わり、その開放感から咲楽は嬉しそう。

 すると咲楽が振り向き、私がつまらなそうにしているのがバレてしまった。

 髪型までしっかり決めて、今日を楽しもうとしている咲楽は、頬を膨らませる。

「依澄、ちょっとここ座って」

 こういうときは刺激しないほうがいいので、大人しく言われる通りに椅子に座る。

 なにが起きるのか若干不安はあったけど、咲楽が机に櫛やゴム、ピン留めを並べたことで理解した。

 咲楽は私の髪に櫛を通す。

「花奈さんに依澄とお揃いの髪型をしたいって相談したら、前髪を三つ編みするのは?って提案してもらったんだ。運動したら前髪死ぬし、名案じゃん!と思って」

 咲楽は喋りながら、慣れた手つきで私の髪で三つ編みをしていく。

 髪が短いから、ヘアアレンジなんてできないだろうし、興味もなかったけど、こうしてやってもらっていると、わくわくしてくる。

 そして咲楽はピン留めを耳の上辺りに刺すと、数歩後ろに下がる。

「うん、上出来」

 前髪が結ばれたことで、視界が明るくなった気がする。

 どんな見た目になっているのか気になると、咲楽が手鏡を渡してくれた。

 受け取り確認すると、前髪で綺麗な三つ編みが出来上がっている。

 これは咲楽が満足そうな顔をするのも頷ける。

 ただ、咲楽とお揃いは嬉しいし、とても可愛いけど、一つだけ気になることがあった。

「咲楽、ピン留めを使わない髪型ってある?」
「あるけど、どうして?」

 咲楽は散らかした道具を片付けながら言う。

「いや、今からスポーツをするのに、ピン留めを使うのは危ないかなって」

 私がそう言ったことで落ち込む咲楽を見て、私はまたやってしまったのだと思った。

 指摘をするより先に、ありがとうくらい言えばよかった。

「あの、咲楽、その……嫌だったわけじゃなくて」
「わかってる」

 しどろもどろに伝えようとしていると、咲楽にはっきりとした声で遮られた。

 咲楽はさっきの位置に立つと、私の髪に触れ、ピン留めを取った。

「なんで私、そこまで考えが至らなかったんだろう。完全に浮かれすぎた。ケガするほうがイヤだよね」

 髪が解かれるのは速く、あっという間に私の前髪が戻ってくる。

 そして咲楽は私の横に立って、髪を結んでいく。

「ごめんね。ありがとう、咲楽」

 さっきは言えなかった言葉を伝えると、頭上から咲楽の照れ笑いが聞こえてきた。

 右側を結ぶと、今度は左側に移動する。

「依澄、今日は楽しもうね」

 その気持ちを押し付けるような言い方ではなく、そうなったら素敵だね、と言っているようで、私は小さく頷いた。